【東巻】 愛の誓い  R-15
東巻ワンライ、久々にリアルタイムで参加できました!
本日バレンタインという事で、pixivにも新作アップしているのですが、そちらもこちらも色々東堂がひどくて
「東堂さんすみません」な気持ちになりつつアップです。

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東堂尽八の、好きなタイプというのは定まらないので有名だった。
半年前は短い髪が好きだと言っていたのに、次のインタビューでは長い髪が好きだと代わる。
去年のサイクル雑誌を見れば、明瞭快活ではきはきした子がいいと言っておきながら、今年は内気で何かを言い出せない子は可愛いなと言う。

東堂のタイプを探ろうとしている、女性陣にけしかけられた級友達が、さりげなく尋ねてもその度にいう事は代わっているのだから、お手上げだった。

「限定してしまえば、一部の女性を悲しませてしまうかもしれんからな!」
そう言った東堂自身ですら、何故自分の好きなタイプはこうもコロコロ変わるのかと、不思議に思う。

…だが実は東堂は、あまり人に言えぬ場所で、女性を好みかどうか判断をしていたのだ。
その条件は、白く細く長い、指先だった。
整えられた爪が長円型で桜色であれば、申し分がない。
握手を求められ、その際に『いいな』と思った女の子のタイプを、その都度無意識に答えていたのだから、一定する筈もなかった。

隠していた訳ではない、東堂本人すらおそらく気づいていなかったフェチ。
そんな東堂を、自己嫌悪の嵐の谷へ叩き落したのは、タマムシ色の髪をしたライバルだった。
今日の東堂に勝ったというのに、嬉しそうな顔もせず去ろうとしている。
それを強引に呼び止め、
「ライバルなんだからな!こういった時は互いの健闘をたたえあう物だ」と強引に握手を交わした。

その瞬間、東堂の背に電流のような甘い波が、押し寄せたのだった。
まさに、捜し求めていたのはこれだったのだという、美しい指先を巻島は持っていた。
すべすべの白い肌に包まれた掌は滑らかで、体躯によく似合う細い指は、長く指輪を重ねても不恰好にならないだろう。
そして、桜色をした爪はまるで磨いたように滑らかで、美しかった。

「ショ…?」
手を握ったまま、どこか息を荒く固まった東堂に、巻島は首を傾げる。
そっと外そうとしても、強い握力でグリップを握る東堂の掌は、同じぐらいの圧力で巻島の手を外そうとしない。
ラチがあかないと、ぶんぶんと縦に振っても、振り切ろうと横に揺すっても、東堂は熱心に手を握っていた。
少し弱々しい声を装って
「…東堂、痛いショ」
と巻島が呟いてみれば、慌てて東堂はその手を外した。

「すすす、すまんね巻ちゃん!今日はオレは忙しくて、語っている暇がない!ではまた会おう!!」
ばっと身を離したかと思うと、顔を赤らめ東堂は、巻島が返事をする隙も与えず、リドレーに跨り去っていった。
「……何だったんショ…」
ぽつりと洩らした、巻島の疑問はもっともだった。

寮への帰還の挨拶もそこそこに、東堂は勢いよく自室に戻った。
鍵をかけ、ショルダーバッグをベッド脇に投げ置き、床へとすとんと座り込む。
自転車を全力で漕いで来たので、息はハアハアと荒く、汗が首筋へと伝っている。
だが今東堂の体に起きている変化は、そんな運動によるものではなく、脳内に居座る巻島の指先によるものだった。

巻島のどこか冷たいような指先を思い出しながら、東堂はゆるゆると下腹部を触る。
硬くなり始めていた昂ぶりは、先端からぬめりを玉のように吹きだしていて、東堂の喉をごくりと嚥下させた。
脳内に桜色の爪を思い浮かべ、くびれを撫で回す。
……かつてないほど、急激に快楽が訪れていた。
「ま…き…ちゃん……ふっ……」
名前を呼んで、目を閉じて、巻島の手が自分の局部を愛撫する姿を妄想すれば、もう止まらなかった。
新しい汗がふきだして雫と伝い、何かが這う不快な感覚を残しても、それすら気にならない。

「巻ちゃん……気持ち、気持ちいいぞ、巻ちゃん……!くっ」
腰の疼きは怒涛のように、東堂を支配し、快楽の波が押し寄せる。
扱く腕は、徐々に早くなっていく。その指は東堂の脳内で、完全に巻島のものへと置換されていた。
その感覚が段々短くなってきて、粘膜から溢れた汁がぐちゅぐちゅと音をたてる様になったと同時、東堂は白濁を吐き出していた。

べっとりと汚れた自らの掌を見て、東堂は情けなさと、自己嫌悪で、しばらくうつむいていた。
しょぼしょぼとティッシュを手に、汚れを拭う指先を、またしても東堂の脳内は、巻島の指先へと勝手に置き換える。
……信じられないことに、またそこは勃ちあがりかけていた。

(なんでだ……何故、オレは巻ちゃんの指先で……こうも……興奮してしまう……)
東堂はいまだ、自分の指先フェチを自認していなかった。
無理やり、自分は巻島裕介を好きなのかもしれないという結論に、達してみれば、すっとした。
「…そうか、オレは……巻ちゃんを好き……なのか」

ならば話は簡単だ、一からアタックをすればいい。
この美形でトークもきれ、山も登れる東堂尽八が本気になれば、たやすいはず!
そう思い、巻島に接しているうちに東堂はようやく、巻島の指が好きなのだと自覚をし始めていた。
クハッと照れたように鼻先を掻く、愛らしい爪。
考え込んだ時に、無意識に唇に当てている拳の先の白い指。
グローブを嵌める時に、ぴんと伸ばした五本の指は、まるでCGの絵のように伸びやかで美しく東堂を魅了した。

「オレは…巻ちゃんの手に、理想を見ていたのだな」
自嘲ぎみに自らをそう納得させた東堂は、ライバルとして接しながらも、巻島の指を盗み見ることがいつしか習慣になっていた。
いずれ、巻島以上の美しい指の持ち主が現れ、東堂を惹き寄せるかもしれない。
そうすれば、また素晴らしいライバル同士という関係に戻れるだろうという、東堂の淡い期待はいつまでも達することはなく、日々はさっていく。

数ヵ月後、東堂尽八はまた別の葛藤に襲われていた。

(ならん、ならんよ巻ちゃん……!)
巻島への偏執的な感情の落しどころをみつけ、ようやく落ち着きはじめていた東堂は、隣ですやすや眠る巻島を、息も荒く見下ろしていた。
千葉へと登りに来て、急な雷雨でクライムは中止し、巻島の家へ泊めてもらうことになったのだ。

軽いうたたねのつもりらしい巻島は、掛け布団も乗せず、ベッドの上で赤ん坊のような姿勢で、目を閉じていた。
白い手は、巻島の顔の横で二つ、軽く何かを握るように曲げられ並んでいる。
東堂をくらりと酩酊させるほどの、美しい手が揃って眼下にあると思えば、もう止まらなかった。

そっと目を覚まさせぬよう、指先を掬い、口接ける。
髪の香りとよく似た、清涼感のある匂いが、滑らかな肌から漂っていた。
(ほんの少し……ほんの少し…だけ……)
感覚が一番鈍いだろう爪に、舌を乗せた。
滑らかな味のしない飴を含むような、不思議な感覚にぞくぞくと腰がわななく。

喉が渇いたようにヒリつき、東堂はその指先をそのまましゃぶった。
「巻ちゃん……巻ちゃん………たまらんよ……っ」
「………ん……」
指先に濡れたような熱い感覚をうけ、巻島がゆっくりと目蓋を開ける。
「と……東堂……?……」
血管がざわめき、未知への恐れで、巻島は怒鳴ることもできず、呆然と東堂を見つめていた。
巻島の指が東堂の唇に包まれ、熱に浮かされたような獰猛な目で、東堂は巻島を動揺もせず見詰め返す。

「ふぁっ……」
舌で敏感な薄い指股の皮膚をなぞられ、巻島が背筋を反らせた。
「巻ちゃん……」
「お、お前……何、してる……ショ……離せ……」
気持ち悪いと怒鳴っても当然な場面なのに、強い視線でねめつけられた巻島はビクビクと手を引こうとするしかできない。
そんな巻島に見せ付けるように、東堂はまた巻島の指先をねっとりと舐め取った。
「巻ちゃん……綺麗だ…」
「はぁっ……ん……やっ……東堂…あっ…」
東堂の口腔は熱く、粘膜に包まれるたびにヤケドすらしそうな心持になる。

ようやく解放されたかと思えば、今度は手首から掌のラインを、東堂の舌は辿るように這っていた。
びくんっと、巻島の腰が揺れ、甘い感覚がせりあがる。
「い、やだ……東堂離せっ……ふぁ…っ」
「素晴らしい感度だな、巻ちゃん こんなに敏感で…日常生活に支障はないのかね」
溢れた唾液で唇を濡らす巻島に、東堂は目を細め尋ねた。
「よ、余計なお世話……ショ……」
その台詞が気に食わなかったみたいに、東堂は執拗に巻島が弱い箇所に、軽く歯を立てた。

ぞくぞくととした痺れが、巻島にじれったい快感を埋めつけ、あえぎに似た吐息を洩らさせていく。
このままでは、東堂の前で醜態を晒してしまうかもしれないと、巻島は睫毛を濡らした。
「ふっ……なんで、こんなこと……するショォ……」
嫌がらせにしたって、ひどすぎる。
多分東堂でなければ、こんな恥ずかしい感覚が湧いてくることもなく、平気だったはずなのに。

ぺろり、と東堂はまた敏感な指の合間を刺激し、巻島に快感を与える。
唇から溢れそうな矯正を噛み殺せば、代わりに涙が滴となって伝った。
「…やっ……ショ……」
「ま、巻ちゃん……すまないっ!!」
巻島の涙を見た東堂が、ようやく我に帰り、慌てて一歩後方へと退いた。

その際、フローリングの上にあったジャケットに足を滑らせ、盛大に転んだのは、痛そうだが自業自得だと、巻島は潤んだ瞳のまま見詰めていた。
背中を強打し、咳き込みながらも再び起き上がった東堂は、またしても巻島に近づき、両手を己の指先で包み込んだ。

「巻ちゃん……オレは……認めたくなかった……お前とはいいライバルで、永遠の友でありたいと…願っていたのだが……」
「な、なんショ いきなり……」
「それだけでは足りんよっ! 巻ちゃんは自転車を降りてもオレの理想だ、女神だ、愛の化身だ!!好きだ!!」
「は!? お、落ち着くショ東堂!!」

軽く寝ていたら、ライバルに指を舐められていて、女神だとか言われている。
――何これ、意味わかんない

「オレはこの上もなく落ち着いているぞ、巻ちゃん! ずっとずっと迷っていたオレは巻ちゃんの指が好きなのか、自転車に乗る巻ちゃんが好きなのか!」
そこで一旦言葉を切った東堂は、切れ長の瞳をさらに鋭利に、巻島を見詰めた。
「だがようやく解った…巻ちゃんは……オレのすべてを攫う、愛の盗人だったのだな!」
「真剣な顔で、お前 何言ってるか全然意味不明ショ」
「そうかね 解らんか だが構わんよ これはオレが巻ちゃんに捧げる愛の誓いだ!自転車を降りても、オレの心は永遠に巻ちゃんのものだと!」

その美しい手も、自転車も、それゆえに迷っているのかと思ったが、巻ちゃんが仮にその両方を損失しても、オレの愛に変わりはないだろう。
今しがた、転びながら自転車に下りた巻島が、美しくない指を持つ姿を想像したが、滾りを沈めることはなかった…と、東堂は続ける。
つまり、巻島という存在そのものが東堂を魅了しているのだ。

そう巻島の首筋へ顔を寄せ、抱きしめる東堂にもう、迷いはなかった。

「…いやだから、本気でマジ意味わかんねショォォォ!」
イレギュラーな存在だと思っていた自分は、告白までイレギュラーにされるものなのだろうか。
指先をよだれでべたべたにされながら、感じてしまって、愛の告白を叫ばれている……この状況はなんなのだ。

一部の行動は変でも、一般常識や礼儀に長けているとイメージしていたライバルの告白は、それでも新しい感情を招き、巻島の鼓動を早めていた。
「好きだ、巻ちゃん!」
「……順番 逆ショ いきなり寝てる奴の指舐めて告白って、変態ショ」
「ハッハッハッすまんね! オレの思いが暴走してね!」
死刑といいながら、押し剥がした東堂の代わりに、枕を抱える巻島の頬は、それでもほんのりと紅潮していた。