気付く心

  顔が良くて、性格も良くて仕事に対してのプロ意識も強くて
責任感が強く頭も良い、運動神経だってきっと優れている敦賀
さんという存在は、私にとって芸能人の男なんてみんなチャラい
に決まってると、バカ尚のせいで思い込んでしまった固定概念
を覆してくれた凄い存在なの。

 両拳を握ってそう主張するキョーコに、モーコは貴方が今更
主張しなくても日本中の女性がそう認めているわと答えかけて、
今更かと溜息をついた。

 出会って暫くはキョーコの事を不破尚と敦賀蓮の熱狂的ファン
だと思っていたモーコは、カラオケルームでの語り合いでやっと
それが真実でないと知り、キョーコが不破尚の事を憎み、蓮の事
を先輩として人間として尊敬しつつも、魔王オーラを漂わせた原因
不明の怒りに突発的に悩まされることがあると知ったばかりで、自分
の当然イコールキョーコの当然ではないかと、己を納得させた。


「ねえ それで結局キョーコはその凄い存在の先輩をどう思って
いるの?」
 カラオケルームの密談から半年、蓮との親密度を増していながら
またしても、最近のドラマの仕事現場で蓮の暗黒オーラを感じると
半泣きのキョーコに泣きつかれたモーコは、今日もカラオケルームに
二人でいる。

 あの時「敦賀蓮は最上キョーコを好きなのではないか」の憶測を
立て、それを否定された経緯は記憶に残っているが、その際キョー
コの方の気持ちはどうであったのかを確認していなかったと、思い
だしての疑問だった。

「す…凄いって…思ってるわよ?」
「凄いは好悪の感情じゃなくて形容詞でしょ…アンタは不破尚を
心底キライで憎んでいても あれだけの快進撃や連続ヒット少しは
凄いと思える感情だって生まれる余地あるんじゃない?」
「そう…だけど…」
 複雑なキョーコの表情に、それを認めさせるのも酷かと判断した
モーコはさりげなく話題を変えた。

「…敦賀さんはどんな時に不機嫌になるの?」
「えっと…今ちょっと仲良くなった別事務所の俳優さんがいて その方
昔一時期料亭で働いていたこともあるとかで お話が合うんだけど…
なんでかその人と話してたりとかすると…」
「昔料亭で働いてたことあって アンタと今共演してるって… ひょっと
して相手は白岡満?」
「え、モー子さんも知ってるぐらい有名なエピソードなの」
 
フゥと吐息をついたモーコが、目の前のテーブルに肘をつき、指で
額を支える。
「…白岡さんが名うての女タラシの噂も どうせアンタの事だから
知らないんでしょう」
「…今 知った」
「ついでにあの人が 落としたいと思った女性は前フリとして料亭
で自分は働いていたと話しかけられてくるのも」
「へぇー そうなんだ…ってまさかモー子さんっ!やられたのね?…
おーのーれー 少しばかり名前が売れているからって、パターンと
して有名になるようなナンパの手口で モー子さんにちょっかいを
出そうとするなんて許せない!!私が恨みオーラで……」
 拳を握って背後から暗黒オーラを漂わせ始めたキョーコに、モーコ
はあきれたという視線で指差した。

「…アンタもでしょ」
 無言で自分を指差して首を傾げるキョーコに、モーコは畳み掛ける。
「敦賀さんはそれでアンタを心配してたんでしょ」
「ああ」
 ぽんっと片方の手で作った拳の底部を、掌で受け止めたキョーコが
納得したように頷いた。
「敦賀さん…同じ事務所だから後輩の心配までしてくれたのね 流石
気配りまで凄い…でも私なら大丈夫なのに!今の私は打倒不破尚
しか頭にないんだものっ…っていうかモー子さん違うわよー あれは
ナンパなんかじゃなくて 私も料亭みたいなところで働いていたから
たまたま話題になっただけでー」
「あの…そうじゃなくて………いえ、もういいわ そうね質問を変えま
しょう その敦賀さんを後輩としてどう思う?」
「勿論 尊敬!あの人は一後輩でしかない私にすら気にかけてくれる
凄い人なんだもの そして色んな所でさりげなくフォロー迄してくれる
なんて…凄すぎるわよね!」

 その凄いは、現在男嫌いになっているキョーコにとって、『好き』の
第一歩であると告げるべきかどうか、一般基準という判断を持ち合わ
せるモーコは悩んだ。
 しかし、とりあえずのキョーコの目下悩みの原因である暗黒オーラ
は、行動に気をつければOKと判明したのだから、それ以上人間関係
をこじらせる真似はやめておこうと、
「悩み 解決してよかったわね 白岡さんとの言動を気をつければもう
大丈夫の筈だわ そう敦賀さんはアンタを心配してるの!それだけ!
だから悩む必要ないわ」
とニッコリ笑って、フリードリンクの紅茶を一口啜った。 

 
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モーコさんのお悩み相談室