染まらぬ金色

俺への抵抗を罪だとでも思っているとばかり、アリババは逆らわない。
その健気ともいえる従順さが、いっそうに俺の憤りを掻きたてるのだと、
まだお前は気付かないのか。

見回りついでの帰り道の路地裏は、どこぞの店の灯りが洩れて、月光の下
テリトリーを昼間と違った隠微な顔にしている。

「足、開けよ」
首を振らぬかわりに、かすかに身を強張らせたアリババの脚の合間に
膝をねじ込ませる。
「カ、シム…こ、ここ 誰がくるか、わかんないし…」
掠れた声は、まるで弱々しい悲鳴のようだ。


「それが?」
半ば熱を持ち始めた股間を押し付けると、それがやっと本気だと気付いた
ように、アリババは顔を背けた。

「だ、誰かに見られたらどうするんだよ」
「どーもしねーよ 俺の新しい恋人は金髪なんだなと皆が思うだけだ」

俺たちの巣窟に、金髪なんてお前だけだがな。

無意識に後ずさるアリババを、追い詰めていく楽しさ。
余裕なんてなくなるほどに、力尽くでかしずかせたくなる。

壁を背に、俺を見上げるアリババは息が浅く、俺がこれからどういう
行為を望んでいるのか、察知しているのだろう。
怯えたような視線に、ゾクゾクと喜びが溢れ、いっそ噛み付いてしまいたい欲望を意識させる。

「お前だって…お、男が恋人だなんてバレたら…」
「ハッ――」

あまりの情況を得ない台詞に、失笑が洩れた。
俺が生きてきた世界で、男を恋人に選んだってどこもおかしくはないのだと、お前はまだ
悟っていないのかと。


わざとかがみこみ、覗くようにアリババを見上げる。
「ここじゃイヤなのって?」
がさついた指が、アリババの頬に触れる。わざとらしく優しい声で、耳朶に唇を寄せ、
その滑らかな皮膚をまさぐる快感は、ひたすらに甘い。

わずかな逃げ道を示してやれば、アリババは素直に何度も頷いた。
拒否してもいいのか?と見上げる顔は、頬が紅い。

――ああ、気持ちがいい。
こんな微かな隙間での逃げ道だったら、幾らでも与えてやるさ
だが、もう俺から離れた場所へは…逃がさない。
何も知らないお前に、首領という位置を与え、責任感と言う鎖で自由を奪う。

「ならお前の部屋とここ、どっちがいいか決めろよ」
回避できたとの錯覚を、即座にうちのめす喜悦の声は、我ながら下種な響きだ。
拒否権を奪い、自ら選んだのだと強いるための選択肢に、アリババはひるむ。

「決められないなら構わねえぜ」
答えを迷うアリババの後ろ髪を強く掴み、抗う隙を与えず荒っぽく口付けた。
怯え、腕の中で身震いするアリババの口腔内は、たまらなく熱い。

その熱が思考を侵食し、何も考えないまま、のけぞるアリババの白い喉元に、噛み付いた。

抱きかかえるように、背中に腕を回すと、アリババは咄嗟に逃げようとした。
おそらく、反射的な行動で意志に従ったものではないだろう。

だが、それが俺の最後の理性を奪った。

背後に回した腕はそのまま、双丘へと下り、服の隙間から窪みに指を伝え這わせる。
くすぐるように、肉の柔らかさを楽しんでいるとアリババは腰を揺らめかせた。

「…やっ…カシム カシムこんなとこで…あっ やだぁ」
逃げられない獲物のかすれた悲鳴が、躰の芯を揺すり俺を陶酔させる。

あの深く暗い海の底で澱んでいたような毎日が、嘘のようだ。
こんなにも俺を酔わせて、こんなにも夢中にさせる罪のないお前。
清潔そうな笑顔でいればいるほど、汚して、壊したくなる。

もうこれは、傍にいたいというだけの、願いなんかじゃない。
俺を腐らせる、お前を辱める妄執だ。
際限のない悪夢のような、麻薬とわかっていても、お前と一つになれる
錯覚を与えてくれる。

アリババの体がしなり、力が抜け、せつなげな嗚咽が洩れた。
戒める必要のなくなった体を、あとは貪るだけだ。

その媚態めいた声をあげる唇を。
火照る滑らかな白い肌を。柔らかな首筋を、指の合間に突起する胸の飾りを。
熱い狭間に指を押し込めれば、アリババは全身を引きつらせた。

「やっ――カシム こ、ここじゃ駄目っ…ひぁっ」
強烈な羞恥に、眩暈すら起こしていそうなアリババの内部を、執拗にかき回せば、
もう俺に縋ることしかできなくなる。

「さっき、選ばせてやったのになあ?」

あの時選んでいれば、こんな道端で浅ましい行為をしなくて済んだのに。

恍惚とした声で、そう尊大に告げてやれば、アリババは目に涙を浮かべ、まなざしを揺らした。
離さないとの独占欲が、支配しているとの嗜虐感が、いっそう俺を獰猛にさせる。

アリババの腰が、せがむように慄くと、張り詰めた先端から滴が伝え落ちた。

「もっ…離… カシム あっやめっ…!」
「…わかった」

アリババが達しようとする寸前に、俺は両手を離し、投降とばかりに両腕を上げ、その体を突き放した。
疼くように腰をふるわせ、満たされない欲望を抱え込んだアリババは、地面に両脚を投げ出し、
呆然と俺を見上げる。

「やめて欲しいんだろ?」
無表情に、いかにもつまらなそうな声で告げてやる。

「ふっ……うっ……」
ポロポロと零れ落ちたアリババの涙は、こんな場所にあっても背筋が疼くほどに、綺麗だ。
どれだけこいつを汚せば、俺と同じ場所まで堕ちてくるのだろう。

からみつくような視線で、雫をしたたらせる先端をねめつけ、俺はアリババに 自分で行為を
続けるか、俺に続けて欲しいのかを選べと促した。
どちらを選んでも、お前は穢れに近づくだろう。

遠く、夢見たのは暖かい金色の光。

お前を好きだとの言葉は、喉の奥に貼りつき、カラカラに乾いた塊になって、どこかで詰まっている。
忌まわしい俺を、いっそ拒絶してくれたら憎めるのに。

どうやっても一つになれない焦燥を満たす術を、俺は知らない。