初めの一歩


同盟を結び、日本への滞在を決めたここ数日、日本の様子は
少し以前と同じようによそよそしくなっていた。

栄光ある孤立と強がってはみても、実際に同じ道を歩める仲間が
いることは心強く嬉しく、…特に一度ロシアと手を結んでしまう
のではないかとイギリスは案じていただけに、ひたむきな様子で
自分の下へ駆けつけてくれた日本の様子は、それだけで充分に
心を満たしてくれていた。

そうなれば、もっと相手を知りたいとの欲求が生まれる。
お互いにもっと語り合って、文化や周りの状況を知り合わないか
のイギリスの申し出に日本は頷き、ではまず我が家にいらして
下さいと招待をしてくれたはず…だったのだが。

「なあ日本… 俺はお前になにか失礼な事をしでかしたか?」
「あ…す、すみま…せん」
俯きがちに謝る日本は、自分の態度に自覚があったのだろう。

「その様子だったら俺の勘違いじゃなさそうだな…謝らせたい訳
じゃない 俺が日本のルールを知らず何か不躾なことをしでかし
たというなら正したいだけだ 言ってくれ」
「いえ イギリスさんは何も…何も悪くないんです」
一生懸命に言葉を探す、日本の眉根は寄せられどこかつらそうで
イギリスもそれ以上追求できなくなった。

「…私…は 人に優しくされると…どうすればいいのか解らない
のです」
しばらくの重い沈黙を破り、日本がポツリとつぶやく。
「えーっと…意味がよくわからんのだけど…お礼を言えばいいん
じゃないのか?」
「ああ…そう…ですよね 私はずっと一人で…たまに兄のような
存在の相手とやり取りがある他 一人でいる安寧と気楽さに浸っ
ていたので …語りかけてくださる嬉しさを どうお返ししたら
いいのかと迷ってしまい…」
「なんだ 人見知りが発動されただけか」

さらりと言ってのけ、安心したと笑うイギリスに日本が小さく目
を瞠った。
「あの…怒られないのですか?」
「悪意があって仕掛けてきたってんならともかく 解らなくて
困ってるやつを攻撃するほど子どもじゃないさ」
「イギリスさん……」

爽やかに笑う笑顔と、その紳士ぶりに日本の心は揺らぐ。
「私は…一人でいるのに慣れて一人でいるのが楽だと思っていた
のですが……誰かと一緒なのも悪く、ないものですね」

頬を染め、一生懸命に言葉を紡ぐ日本の様子に、今度はイギリス
が不自然に硬直をした。
「…イギリスさん …あの…?」
どうかしたのかと、座ったまま距離を寄せた日本から、イギリス
は大仰に遠ざかる。
「い、いや お前今まで無表情に近い顔しか…見せてこなかった
から 笑顔がかわいいとか…あ、いやそういう顔も悪くないとか
…ちょっと…驚いただけだからな!別に見惚れていたわけじゃ
ないからっ!」
少し慌てた口調で、何故かその頬は紅かった。

「はあ…あの、…今後とも末永くよろしくお願い申し上げます」
三つ指を突いて、丁寧に頭を下げる日本。
「こちらこそ…って…なんか…新婚のやり取りみたいだな」
ぼそりと呟いた自分の言葉に、なお一層頬の赤みを増したイギリ
スは、ごまかすために横を向き、わざとらしい咳払いをした。