鈍い人

少し落ち着いた日本見学がしたいと、公務を離れイギリスが遊びに来たのは
晩秋の頃だった。
紅葉で彩られた神社や仏閣を案内する日本に、オリエンタルで綺麗だと笑顔
を向けると同時、イギリスは小さなくしゃみをした。

「冷え込んできましたからね そろそろ家へ戻りましょうか」
「ああ もう日が暮れるし…そうだな ところで日本」
言葉を途中で止め、真摯なまなざしを向けてくるイギリスに、日本は小首を
傾げ続きを促した。

「日本の建築は…紙と木が基本だろう?」
「ええそうですよ それで燃えやすいので少し昔の法律ですと人殺しより
放火のほうが罪が重くなっていたりしましたね 何人が巻き添えになって
亡くなるかわからないので」
「かつ俺のトコみたいにセントラルヒーティングもない」
「ええ」

何を言いたいのだろうかと、帰路を歩みながらの会話に、相槌をうつ日本。
ぴたりと足を止め、小さく息を呑んだ後なぜか頬を少し上気させたイギリス
が改めて、念を押すように続けた。
「冬場は…さ、寒いだろ?よければ俺が温めて……」
「ああ、そういう心配をされていたんですね」
勢いづいた言葉の後半が、小さくなって聞き取れなかった日本は意味の取れ
た前半部分に、全力の笑顔を返した。

「大丈夫ですよ!日本建築はそういう面で通気性が高いから火鉢を各部屋で
使えますし何よりコタツという必殺武器があります!上からだけでなく下か
らのぬくもりが欲しければホットカーペットの上にコタツという反則技を
用いれば文句なしですし それに我が家にはご来客用の半纏だってちゃんと
ご用意してあります これらフルセットで部屋に篭れば寒いどころか外出を
したくなくなること間違えなしなほかほか完璧セットです!」

にこにこと畳み掛ける日本に、遠い目をしたイギリスが
「それは…うん すばらしいな」と泣きかかったような声で呟いた。
「お褒めの言葉 ありがとうございます…明日はご一緒にコタツライフを
楽しみましょうね」
邪気無くほほえみかける日本と対照的に、意気消沈するイギリス。

「……なあ日本 鈍いヤツはどうして…言葉の意味の裏を探ろうとしない
んだと思う…?」
「え…?それは…難しい質問ですね… 多分ご自分が鈍いと気づいておらず
なおかつ裏の意味があるとも気づいていないからでは?」
「そうか…… …明日はコタツでゴロゴロか!楽しみだ!」
「そういって頂けると…嬉しさひとしおですね」

半ばヤケぎみに叫んだイギリスに、微笑んで同意する日本はどこまでも幸せ
そうだった。