愛が救う方法とは

『愛は地球を救う』をキャッチフレーズにした、某テレビ番組を
目にしていたイギリスが、首を捻っていた。

お茶を用意し、横の座卓に置いた日本が同じように少し首を傾げ
イギリスの様子を窺った。
番組は普通にパーソナリティーと呼ばれる出演者たちを紹介して
いるだけで、別に不審に思うような箇所はなさそうだ。

「…何かおかしな場面でもありましたか?」
卓を挟んだ反対側に座した日本が、お茶を啜ったあと尋ねると
イギリスは少し苦笑に似た表情を浮かべた。

「いや…俺らの国にある諺とは正反対な諺だなと思って」

『愛は地球は救う』は諺ではないがと思いつつ、話の流れを立ち
切るのも悪いかと、日本は続きを促す。
「正反対…と言い増すと…イギリスさんの所では愛は『地球を滅
ぼす』とでも言う故事などがおありで?」

「いや…それは物騒すぎるだろ」
イギリスが若干引いた様子に見えるのは、多分気のせいではある
まい。
「そうですか?例えば…愛するものを権力闘争で殺されたりした
皇帝がこの世を滅ぶのを望むなんて展開はアリかと」
「………二次元ならな」
話題が逸れたと、日本が入れたお茶で口を湿したイギリスが現実
ではないないと、掌を顔前で振った。

「俺の処では『貧乏は愛を殺す』っつーんだ」
「あぁ…それは……」
ごもっともとは思っても口にし難く、言いよどむ日本にイギリス
が力強く頷いた。
「これは今の時代も変わらない現実だろ?」

「そうですね…まあ我々の方も…やっぱり結局はお金という事情
はありますし」
「…そうなのか?」
「あの、実は『愛は地球を救う』は諺ではなくテレビでチャリテ
ィーを募るための番組のコピーでして」
気まずげに少し眉を寄せた日本は、曖昧な微笑みを浮かべる。

「集まったお金を、募金として提供するという番組なのですが
…やはりテレビが媒体なので視聴率が必要なんでしょうね ここ
数年は某有名男性タレント事務所の方ばかりが起用されておりま
すし……感動を起こすのに手早いと踏んだのか、ひたすら芸能人
を走らせ続けたりと あまり愛には関係ない行為を延々放映して
いますから」
「…走らせるよりは、芸能人が募金お願いしますと各地廻ったり
ボランティア作業する方が よほど本来の意図に叶うんじゃないか」
「…まあ、そうですね」

「…結局『愛は地球を救う』→救う手段は金→金が地球を救うに
変換できますので…私たちのも似たような意味になるのではない
でしょうか」
「それでいいのか 日本」
涼しい顔で茶菓子を進める日本に、脱力したイギリスが尋ねる。

「我々の間ではこんな言葉もあるんですよ『何もせぬ善より する
偽善』…例えどんな理由でも、集まった金が慈善にまわるなら
いいのではないでしょうか」

日本独特の言い回しは、相変わらず捻りすぎだと遠い目をした
イギリスに、日本は「お茶のお代わり淹れてまいりますね」と
にっこり笑った。