許可申請

カラリと木と木が擦れる軽い音がして、障子が開いた。
「ぐっど、もーにんぐ…イギリスさん 朝ですよ起きて下さい」
「…んー…まだ…夜だろ…?もう少し……寝る…」
まだ雨戸が閉まったままなので、時間間隔が掴めずにいる
イギリスは、日本の呼びかけにも寝ぼけ眼だ。

西洋建築では、窓にカーテンという構造上、朝日が昇るにつれ
自然陽光が差し込み、眠りを覚ましてくれる。
だが建物の外枠部分に木戸を立てかけ、光そのものを遮ってしま
う日本の部屋では、外国人は眠りの感覚が異なってしまい、起き
にくいようだと鎖国後のやり取りで日本は学んだ。

この場合、手っ取り早いのは雨戸を開けてしまうこと。
小さくない音がしてしまうので、眠ってる相手がいる間には少々
気が引けるが、目を覚まさせるには眩しい日差しとその音は、
解決方法に覿面だった。

ガラガラと大きな音を立て、壁隅の収容枠に雨戸を押し込めると
白く部屋を染める光で部屋は満ち、眩しいほどだ。
その刺激を受けたイギリスは、のろのろと寝そべったまま顔を
上げた。
枕元にちょこんと座った日本は、悪戯に成功した子供のように
軽く笑って「起きてください」と繰り返す。

暗闇から、強烈な日差しに引き出されては、再度の眠りにつく事
は難しい。
それでも昨晩はオカッパの幼女が遊ぼうと、寝ようとするたびに
部屋を覗くので、コマ切れな睡眠となってしまったイギリスは
頭がはっきりしないまま、半身を起こし座った。
薄く微笑む日本は、朝に強いのか既に寝巻きではなく、きちんと
着替え割烹着姿で、髪の毛もサラサラに整えられ流れている。

それを見たイギリスは、自然な動作で日本の髪に指を差し込み、
その感触を楽しむように指で梳いた。

「あの……っ……?んーーっんっ!」
いきなりな行動に、頬を染めていた日本の台詞は直後のイギリス
の行動で断ち切られた。
ぐいと強引な力で後頭部を引き寄せられたかと思うと、唇には
暖かな感触。
日本とイギリスの口接けは二秒にも満たないものだったが、日本
を困惑で硬直させるには充分だった。

真っ赤な顔で口を掌で覆い、膝を崩して後退しようとする日本の
手首を掴み、イギリスはそれを留める。
「…あー…悪い その、自国の挨拶と間違えた」
「え…あ、あぁそうだったのですね」
あからさまに強張りを解いて、日本は安心したように小さく息を
吐いた。

「わが国での接吻は 愛し合うもの同士の行為ですので…他の
方に行うときは気をつけてくださいね きちんと相手の方の
許可を取られないと誤解…されますので」
「許可を取ればいいのか?」
まだまだ慣れぬ、宝玉のような瞳に覗き込まれ日本の頬は僅かに
染まった。
「…相手が良いと言ったのなら、…良いのだと思いますが」
「じゃあ許可をくれ キスしてもいいか日本?」
 
率直なイギリスの問いかけに、日本は再度固まった。

前向きに善処しますと答えるより先に「NOがないのはYESだよな」
と再び唇は重ねられる。
少し乾いた感触と、直接的な他人の体温。
それが嫌でない自分をどうしましょうと、今度は自分の気持ちに
日本は困惑をしていた。