正直者は…?


ふとした折に、国民性で好まれる物語が違うとの話になった
日本の話題は、いつしか童話の域にまで遡っていた。

長寿番組の一つで、現在最前線に働くものの大半が知って
いるであろう蒼い耳なしネコ型ロボットの物語は、日本では
好まれるものだが、アメリカの国民にはウケなかったらしい。
それはそもそも、「ヒーローがいないからだ」とアメリカは語る。

主人公が道具によって、一時ヒーロー的になったと捉える
解釈はどうだろうと持ち出した日本に、アメリカはあれは
あくまでドーピングであると否定した。
ヒーローであるというなら、逆恨み的な行動はせず、力を
得るための努力をすべきだと言われ、もっともだと納得をした。

それでは、と日本が気になったのがファンタジーや物語で
登場人物がパワーアップアイテムを手にする展開だ。
「…正直なきこりのお話なんかは、どのように思われている
のでしょうか」
「それは普通にご褒美で、パワーアップアイテムじゃないと
思うんだぞ…日本にもその話は伝わっているのかい?」
「はい 子供にもわかりやすい勧善物語ですので好まれて
いますね」
「じゃあ その物語の舞台になった湖に今度行って
みないかい?」

国家であるという寿命を持つ者だけが知る、隠れた森奥の
湖は、澄んではいるが底までは見えない神秘的な光を湛えて
そこにあった。
「ここ…が素敵な物語の舞台となった場所なんですね…でも
ガイドブックなどでは見かけたことないようなのですが」
「一般的には欧州連合達の皆も知っていても口外しないよう
にしてるのさ だから日本も秘密にしておいてくれよ」
「はい …でもどうしてですか?」
「物語りだと解っていても、心理的に斧やら貴金属やらその
場に行ったら投げ込みたくなると思わないかい?」
「…そうですね 湖が大変なことになりますね納得で…」

バッシャーーンッ!

日本の言葉が終わらぬうちに、目の前の湖面が大きく揺れて
派手な水音が響いた。
何事かと慌てて横を向けば、そこにいたはずのアメリカの
姿がそこにはなかった。
「ア、アメリカさんっ!?」
跪き、慌てて湖を覗く日本の前で、湖面が再び揺れた。

「そこの…少年……ではありませんね…えーっと…青年?」
白のドレープが一杯入った、薄い布地を纏った美しい女性
が日本を見て微笑む。
その女性がいる場所は、一般的にはありえぬ湖面上だ。
「え…あの……」
「貴方が落としたのはこちらの『空気が読めて自我を通さず
穏やかな青年』ですか?」
「い、いえ違います!空気は感じてもあえて読まないぐらい
自我を貫く方ですっ」
「それでは『料理は見た目も味も最高級 歴史の重みを背負い
振る舞いも世界的紳士なこちらの青年』ですか?」
「それも違いますっ 料理は質より量でまだまだ俺ルールな
所もある人ですっ」

必死で呼びかける日本に、湖の精は柔らかく微笑んだ。
「正直な青年ですね ご褒美にこちらをあわせ…」
「いりませんっ!元の、元のアメリカさん一人で充分です!」
「まあ…慎ましい青年ですね これはご褒美だから遠慮を
しなくてもいいのですよ」
「遠慮じゃありませんっ!アメリカさんが三人もいたら周囲が
大変なこと……あれ?でも空気を読んだり紳士な人達と一緒
なのでしたら少しは騒ぎも……」
「遠慮でないというのなら 元の一人だけを置いていきます」

独り言モードに入った日本を介さず、淡々と続ける湖の精は
びしょ濡れのアメリカを日本の傍らに置いて、姿を消した。

「……日本 実は俺を嫌いかい?」
「そんなことありませんっ!自己主張を堂々とできる貴方を
私は日頃からすばらしく、好ましく思っております!」
ぼそりと呟かれたアメリカの疑問に、日本は握りこぶしで声を
大に否定した。

「そ、そうかい?それなら良いんだ!やっぱりヒーローは
憧れられる者だからね!」
叫んだ直後、自らの台詞に顔を紅くした日本を見たアメリカは
こちらも頬を染め、ウィンクをして親指を立て日本の肩を
抱き寄せ笑った。