キレイな世界

「日本〜これはオススメなんだぞ!ラスベガスで作った白ワインで…
…日本…?」

酔いに任せて間近に近づいたアメリカの両頬を、同じく酔った
日本は掌で挟み、口接けができそうなぐらいの距離まで引寄せた。
対人距離が欧米達と比べ広めな日本が、こうも密着してくるのは珍しい。

珍しいというより、何かあったのかとアメリカが横のテーブルに
視線を流せば、そこには既に空になった清酒やら瓶底に小指の巾程しか
残っていないテキーラやらが転がっている。

普段から無表情に近いので、解らなかったがよくみれば日本の目許は
紅く染まり、眠気やその他の理由からかその瞳は潤んでいた。
「日本…酔っ払っているのかい?」
「酔っ払ってらんか …いませんよヒック」

いやいやどう聞いても、その口調は正常なものではないだろう。
アメリカが振り解こうと思えば簡単に外せる両手だったが、こんなに
近い距離で日本の顔を見れるチャンスはそうはないだろうと、なされる
まま目前の人物を観察していた。
「あのれすね…聞きたいことがあるのれふよ…」
「うん、いいけど …舌が廻ってないぞ日本 大丈夫かい?」

舌ったらずなその喋り方を、間が抜けているというより可愛く感じてしまう
自分も酔いが回っているのかもしれないと、内心首をかしげアメリカは
改めて日本を見詰めなおした。
「アメリカさんの見える景色は…綺麗な青色をしているのれしょうか」
「意味がわかんないんだぞ 青…?」
「だって!綺麗じゃないですかっ!」

「だって」といわれても何が「だってだ」と問い返したい。
だが、大人げなく叫び返しても今の日本に道理が通じるとは思えない。
普段から混乱の解決は力技なアメリカにしてみたら、非常に困った
事態だと黙り込んでいると、自分の頬を挟んでいた両手は力なく滑り
ずるずると落ちていった。

力を失った日本の両腕はそのままアメリカの肩に掛かり、はたから見れば
抱きついているかのようだ。
いや、「かのようだ」ではなく実際に日本はアメリカに抱きしめられていた。
崩れ落ちる体を支えるという名目だが、ふにゃんと蕩けた表情をした日本
は、アメリカの胸元にそのまま頬を摺り寄せている。
「…アメリカさんの目が すごく キレイで…不思議れす…」
ぽそりと呟いた日本の言葉で、アメリカにはようやく納得がいった。

黒髪黒目ばかりの日本人からしてみたら、引き篭もり脱出後に出会った
蒼い目や緑の目をした人種が不思議でしょうがなかったのだろう。
「それじゃあ 君の目から見た世界は黒いのかい?」
冗談交じりで気の利いた答えを告げたつもりのアメリカは、当人が心地
良さそうな寝息を立てているのに気付き苦笑する。

起きてきた時の、慌てふためく顔が見たいんだぞと理由をつけて
抱き締める腕をほどけないアメリカは、まだ日本への気持ちに自覚が
なかった。