交流努力


聞くつもりはなかったのですが、行きがかった途中で
気になる方の声が聞こえてしまって、ましてそこに
自分の名前があったとしたら、耳がそちらに向いて
しまうのは仕方がないことかと思います。

…そう言い訳してみても、自分が行っていることが
やましい事だとこの上もなく自覚がある訳で、自然
息を潜め欹てた耳が拾った言葉はイギリスさんの
「そうだな プレゼント渡した時も…無表情にしか
見えなかったな」の言葉

やはり、そうなのでしょうか
男たるもの喜怒哀楽をあまりあらわにすべきでないと、
ましてよく分からぬ方に自分の感情をぶつけるべきで
はないとの付き合いを続けていたため、異国の方々が
感情豊かに語りかけてくるのに対し、私は朴訥とした
返事をすることしかできず。

「はい」としか返さぬ私に吶々と語りかけてくれ、
島国同士としての交流をしようと言ってくれ、かの国
の文化を教えてくださったのを嬉しく思っていたのに。
自分の拙さが情けなく、うつむいていると響く靴音。

話を終えられたらしいイギリスさんが、柱影のこちら
に向かって来ていて、気づかれぬよう背を向けたつもり
でしたが、一足遅く。

「あれ?日本 来ていたのか」
声をかけられれば、そのまま逃げ去る訳にもいかず
一礼だけはと振り返った瞬間、私を見下ろすイギリス
さんの眉は顰められていました。
「…なに泣きそうな顔してんだ?」
「してません」
「いーやしてるね」
「わ、私の顔は無表情ですから泣きそうだなんて解る
わけないじゃないですか!」
「全然無表情じゃないだろうがっ!」

思わずといった調子で怒鳴った後、口を掌で覆った
イギリスさんが咳払いの後、逃げることを許さぬ目付き
で私へと返事を促す。
「…今 私は普通の顔をしてるはずです」
「普通の顔を作ろうと装ってるの間違えだろ」
「間違ってません 私本人が普通だといってるから普通
なんです! 表情が乏しいのでイギリスさんからは全部
同じ顔に見えるのかもしれませんがっ」

情けなさで吐き捨てるようになってしまった台詞に
イギリスさんが首を傾げた。
「いやいや お前全然乏しくないだろ泣きそうな時は
こう眉がちょっと下がるし 嬉しいときはにこぉっと
口端上げて可愛く笑うし」
「で、でも先ほど私が無表情に見えたと……」
「ああ聞こえてたのか悪ィ でもあれはお前と出会った
時の話だよ 今考えたら引篭りの生活送ってたお前が
次々知らない奴らと会う破目になってたんだ表情強張
ってて当たり前だよな でも色々知り合ってくと笑った
顔とかが………うわぁっ!!」

いきなり叫んで、顔を紅くしたイギリスさんにどう
対処してよいのかわからず固まってると、顔を覆った
手とは別の手が大仰に振られ横を向かれました。
「いや、そのさっき つい勢いで可愛いとか言ったけど
それはなしでっ…あ、いや可愛いのは事実なんだけど
別に変な意味はなく いやあのそうじゃなくてだなっ
…とにかく日本は無表情なんかじゃないからな!」

そのまま走り去ったイギリスさんは、私を能面顔だと
思っていないと言って下さったと判断してよろしいの
でしょうか。
わざわざそう告げて走っていったイギリスさんの紳士
ぶりは素敵だと思います。

イギリスさんのかっこよさと紳士ぶりを少しでも真似
して行きたいと、せめてもの努力とメイドブームと執事
喫茶を作り始めることにしたのはここだけの話です。