同じ人

必殺返し、鏡召還で現れた海賊紳士とのやり取りは、元が嫌いな相手でない…
むしろ好意を持っているイギリス相手である分、日本の神経を消耗させた。
幸いな事に、時間がたてば戻ってくれたので、日本は安心をしていたのだが、
どうやらその間のやり取りの記憶はイギリス側にも残っていたらしい。

「…やはり アレぐらいの行動力でないと……駄目…なのか?」
顔を赤らめながらも、まっすぐに自分を見てくるイギリス。
はいそうですとも自分では言いがたく、かといってそんな事ありませんよと答え
たら、今と状況は変わらないだろうと思う日本は、意味がわからないふりで
かわす事にした。
「駄目だなんて… 私は今こうしていられる時間を、とても楽しく思ってます」
少々卑怯な逃げではあるが、嘘ではない。
紳士である英国は(酒が入らなければ)、対応もスマートで、日本にとって一緒
にすごすことが楽しい相手である。
「いや その…そうじゃ…なくてだな」
イギリスが言いよどんでいるのは、つまり、一緒にニコニコ楽しく会話という
状態の上に行くのには、このままでは駄目だと言いたいのだろう。

分かってはいるし好きではあるが、今の状態が心地よい日本としては、「はい
強引に迫ってください」とは答えがたい。
それ以上に自分から行動というのも難しく、二人とも口をつぐみ無言になった。

「あ、あの…お茶 入れ替えてきますね」
雰囲気を変えようと立ち上がりかけた日本の手首を、イギリスが握りとめた。
「日本…キスしたい」
「ふぇっ!?」
奇妙な声が出た自覚はあるが、予想外のイギリスの動きに、日本は顔を赤くし
硬直をするしかない。
「キス、したい」

「あ、あの、あのえっと…お茶、入れ替えてきたら……」
まっすぐに自分を見つめてくる視線に耐え切れず、お盆を片手にうつむく日本。
そのまま力任せに腕をひかれ、日本はイギリスの膝上へと座り込んだ。
手首を握る手とは逆の腕が、日本の腰へとまわり立ち上がれぬように戒める。

「入れ替えてきたら…いいってことだよな」
耳元で、わざとゆっくりと確認をするイギリスに日本はますます顔を赤らめ
こくこくと頷くしかなかった。

急激に力を緩められた反動で、バランスを崩しかけた日本を支え、イギリスは
いつもの表情でにっこりと笑う。
「じゃあ 新しいお茶…待ってるからな」

……ああ、お湯が沸かなければいいのに。

顔を赤く丸盆を抱きしめ、ヤカンを見つめる日本を、ポチ君は不思議そうに
見上げていた。