非日常な日常

「最近 どうも日本の様子がおかしいんだよね〜」
軽く言ったフランスの言葉に、周囲の耳目が集まる。
ちょうどその台詞の対象である日本が、資料を置いてきてしまったと
控え室に一度戻った為、それ以外のG8メンバーは暇つぶしも兼ねて
その話題へと興じた。

「…別に 普通のようだが?」
至極冷静な声のドイツに、イタリアもヴェ〜とこくこく頷いた。
「特に具合も悪くないみたいだし 塩好きは相変わらずだし〜」
指折りで数えるイタリアに、特に台詞を発していない他国もその通りだと
同意しているらしく、フランスに無言の視線が問いかける。

「甘いね 今は何月だ」
「7月さっ!」
以前七夕という行事について説明を請けたことはあったが、特に大規模な全国区
のお祭りではなく、地方の自治体がメインので日本は忙しくなかったはずだと
アメリカが答え、フランスもそれには縦に首を振った。

「最近日本の家へ遊びに行ったやついるか?」
「…七夕祭りを見せてくれるって言うんで、俺が遊びに行ったが……
普通だったぞ」
記憶を反芻していたらしいイギリスに、フランスはにやりと唇端を上げた。

「…で、数日滞在?」
「あ、ああ……」
フランスの表情で、なにやらいやな予感がしたらしいイギリスだが、調べれば
すぐに分かる行動なので、あいまいに肯定を返す。
「ヴェ〜ッ!?すごいねイギリス!日本の家に普通に泊まれたの?」
「…特に憔悴した様子もないな」
「フランスはこっそり同じ趣味持ってるって聞いたことあったけど、イギリスも
なのかい!?」

一斉に向かってきた、驚愕の表情。
確かに不思議な住民はいたが、特に悪さするでなく、日本の気配りは上々で、
日本と親しく行き来している者達の驚きは、イギリスの予想の範疇外だった。
「お、お前らだって日本の家によく泊まりに行ったりしてるだろ」
「この時期には行かないよ〜」
ぷるぷると首を横に否定するイタリアに、「そうだな」とドイツも頷く。
「…この時期って……別に国家行事なんかもなかったし……」
「公じゃない 私生活さ」

にやにやとイギリスの反応を楽しむフランスは、端的に答えた。
「日本は8月のコミケ前のこの時期 ほっとんど引き篭もりで原稿に没頭してる
のが普通なんだよ 身なりも「嫁」とか書かれたTシャツでね
……で、イギリスが遊びに行って 普通だったって?」

普通に応対してくれたことが、普通ではなかったという事か。
それでもまだまだ言い逃れができると、内心の冷や汗を隠しつつイギリスが
「お、俺が日本文化に興味あるって行ってたからな!七夕とかちょうど良い機会
だったし それで……」
「うん お兄さんもそう考えられるかと思ったんだけどね 以前日本に『西洋の方が
好まれるようなモチーフのタイピンってどんなものか』って聞かれた事が
あってさ……なんか、俺が答えたまんまのデザインと石が使ってあるタイピンを
そこの誰かさんがしてるんだよね〜」

にやにやと笑いの止まらぬらしいフランスと、察したらしいドイツ。
黙って耳だけ澄ましていたらしい中国が「あへんだけは認めんアルーーッ!」と
脱兎の勢いで日本の控え室に向かっていき、扉の内側には、興味深々と輝く多数
の目。

――ちょっと待て、会議はどうなるんだ。
いやここは、日本を助けにいくべきか。

進退窮まったイギリスは、早く誰かが会議開始を言い出してくれと祈るばかり
だった。