強引な魔法


「変な服」
言いざまに、日本の着物にイギリスが手を伸ばした。
襟の合わせ目に指を掛け、力任せにその指を下に落とすと帯は緩み、
日に焼けていない胸元の肌を曝け出す。
「えっ…あのっ……ちょっ…な、何……」

ジロジロと値踏みをされる視線は、他人と目を合わせるのすら苦手な
日本に、羞恥の意識を誘う。
慌てて襟を整え、ぎゅっと合わせ目を握り俯く日本を尻目に、傍若無
人な指は今度は黒髪へと伸びた。
「…サラサラだな」
真っ直ぐの髪が珍しいのか、何度も指で梳いてはその感触を楽しむ
イギリスに、日本は対処が解らず頬を赤く、固まっていた。

「お前 なんて名前だ」
「あ、あの…日本、です」
「…知らねえな どこの辺境だよ」
「あ、昔は…ジパングと呼ばれていたようです」
「へぇ……お前が」
日本を見下ろすイギリスの姿は、高貴な雰囲気を漂わせながら、それ
でいて野卑だった。
にやりと、癖のある笑みを浮かべると日本の頤を指で掬った。

「気に入った 俺のモノにしてやるよ」
「……恐れ入ります 意味がわかりません」
「意味も何もねぇよ 天下の大英帝国様が支配してやるって言ってる
んだ」
「結構です」
「お前の意見なんて聞いてねぇ 俺が俺のモンだと言ったらそうなん
だよ」

海賊紳士の渾名を、アメリカやフランス等から聞いていた日本は、話
を半分に聞き流していたことを心底後悔した。
「無理です」
「無理じゃない」
「駄目です」
「…聞こえない」

薄笑いを浮かべ、日本を追い詰めるイギリスの姿は既に勝者の余裕に
満ちていた。
「わ、わわ私が好きなのは……普段のイギリスさんなんです!確かに
貴方もカッコいいですし素敵ですし俺様属性キタコレーーですが、私
は紳士な貴方がいいんですーーーーーっ!」
「安心しな 俺は従順な奴には充分紳士だ」
「あ、あ、安心できませんっ駄目ですっ!また今度っ善処しますっ答え
は全部イイエです!」

完全にパニックに陥った日本が、床上にさまよわせていた指先で触れ
た物を握った。
その物質が携帯電話であることを確認した日本は、イギリスに奪われ
る前に短縮を押して、助けを呼んだ。
「たた、助けてください!日米安○条約発動お願いします!!ほわた
が訪れ私ピンチですーーーっ!」

バットを片手に訪れてきたアメリカが、背後からイギリスに強烈な
一撃を振り落とし、日本の貞操は守られた。

「あれ?イギリスだったのかい 日本がコスプレの変態に襲われてる
のかと思って手加減なしでやっちゃったよ」
「あの……イギリスさんのこの魔法…どのようにしたら解けるので
しょうか」
「次 目を覚ましたら、元に戻っているんだぞ」

次回に会う時、1500円ハンバーガーをアメリカに奢る約束をした日本
は、目を覚ますイギリスに今夜の出来事をどう説明しようかと彼の
後頭部にできた瘤を冷やしながら、ため息をついた。

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海賊紳士×日本を書きたかった 世界の隅っこの島国なんか興味ない
と言いつつ、あちこちその手で探検するといいと思います