力技あり


日本が声をかけ辛そうにアメリカの様子を伺っている
のは、その手にしている一枚の紙のせいだった。
勿論それは単なる真っ白な紙ではなく、小さな面積に
日本語で色々書かれている。

「ヘイ日本!なんて書いてあるんだい?俺には読めない
から説明してくれよ」
「えっと……『凶』とありますね……」
「日本は?」
「『中吉』です」
「で俺のとそれは良いのかい悪いのかい?」
わくわくと目をきらめかせ、先ほどひいたおみくじの
解説を求めるアメリカに、まさか「私はまあ良いですが
アメリカさんのは最悪です」と言い出せるはずもなく、
日本はなんとか上手い言い回しがないものかと懸命に
脳裏を働かせていた。

だが、その方法は間違っていたらしい。
固まっている日本の手から、ひょいとおみくじを奪った
アメリカは、振袖を着た若い女性ににこやかに挨拶をし
おみくじをかざしていた。
「コンニチハ ワタシ ニホンゴ ヨクワカリマセン
コレイミオシエテクダサイ」
にこにこと拙い日本語で語りかけてくるのが、ルックス
の良い金髪碧眼の青年とあっては、無碍にしにくいと
いうのが人情というものだろう。
「あら……これは良くない結果ね キョウといって…
おみくじの中では1番悪い…かな」

告げにくい内容だったためか、手にしていたおみくじを
返すと、曖昧な笑顔でそそくさと去っていった女性に
笑顔のまま手を振っていたアメリカが振り返り、日本は
気まずそうに目線を外した。

「日本は悪い内容だったから俺に言えなかったのかい?」
「その…新年からこういう結果は ご気分がよろしく
ないのではと…」
「なんだそんな事!これがバッドだと言うんならグッド
が出るまでオミクジを買えばいいじゃないか!」

無茶苦茶な理論を、親指立てた最高級の笑顔で言い放つ
アメリカに、脱力した日本が肩を落とす。
だがアメリカが訝しく俯いた顔を覗き込むより先に
洩れてきたのは、小さな笑い声だった。

「まったく…貴方という方は相変わらず強引で…前向き
ですね」
「当たり前さ!紙切れ一枚なんかで 俺の一年を決め
られないよ それに」
「それに?」
「日本がこうやって横に居てくれる一年のはじまりが悪い
筈ないじゃないか」

ナンバー1を引くまで俺はやるぞ!と宣言したアメリカは
結局、中吉でも末吉でも妥協せず大吉が出るまで4回
おみくじを購入する破目になるのだった。