年下の上官髭バージョン

特に何も考えずに書いていたのですが、拍手で年上ハボはヒゲではないのですか
のコメントを頂き「しまったぁぁぁぁぁっ!そうかっそうだよねっ! 年上ハボとの出会い
だったらヒゲハボとの出会いでも良かったんだ!!」と萌えまくって書いてしまいましたv
という訳でのヒゲと前髪ぱっつんロイの出会い話です



…確か、私と二歳しか変わらなかったはずだが

本日付でロイ・マスタング中佐殿の護衛官任務に配属されたと、敬礼
をするジャン・ハボック准尉の経歴書をもう一度見直して顔を上げた
ロイは、そんな感想を抱いて目の前の男をまじまじと見詰めていた。

ロイの記憶違いではなく、記入されていたハボックの生年月日は確か
に自分と二年しか変わらぬものであった。
だが、ハボックの威風堂々たる佇まいはとてもロイと同年代のものとは
感じさせぬある種の威圧感を漂わせている。

見た目自体は若い。瞬発力も持久力も兼ね持っているだろう鍛錬で
締まった身体と、短めに刈りこまれた金髪は女性にもウケが良さそ
うだったが、それを含め内部を伺わせないある種の茫洋さが、無言の
貫禄を放っていて、そこが外見に軽いコンプレックスを抱いているロイ
を、つい自分と比較させてしまう。

年下ではあるが一応上官であるロイの前でも身構えないハボックの
雰囲気は、現場慣れした頼もしさを漂わせ、整えられた顎下の髭は
甘くなりがちな垂れ目を補う渋さを彩っていた。


「…ハボック准尉……」
机の上で、両手を組みその上に顎を乗せたロイが低く呼び掛けた。

――…初見だから襟元のボタンもちゃんとした筈だし、煙草だって
咥えていない 足先が潰れた軍靴を履いてるわけでもないし、携帯
備品はきちんとつけてる…よな?

まだ挨拶間もないのに、何故だか睨みつけてくる上官の意図が読め
ぬハボックは敬礼を崩さぬまま、次の言葉を待った。
甘い顔立ちであるにも関わらず、切れ長の黒い瞳の鋭い視線は流石
若くして佐官クラスに昇るだけの緊張感を覚えさせると、ハボックが
妙な感心をしていたところでようやくロイは唇を開いた。

「…男の価値は 髭にあると思うかね」

真面目な顔でのロイの質問の意図を、どう捉えたものかとハボックは
軽い困惑に陥る。どう考えても初対面の挨拶で、交わされるべき質問
とは言いがたい。
無言になったハボックの様子を、呆れから来たものかと判断したロイ
は微かに頬を朱に染め、独り言めいた小声で視線を外し、続けた。

「…同い年のヒューズはまだしも 年下のアームストロング少佐迄
最近髭を伸ばしはじめたし その上側近までが髭などと……私一人
……どうすれば……」

続いたロイの言動も、ハボックからしてみれば初めての会話が意思
疎通の計れぬもので、どう返せば良いのかとなおも言葉に詰る。
――よくは解らないが、どうやら周囲が皆ヒゲを揃え始めたと当人は
悩んでいるらしいと、言葉の端々から悟ったハボックは改めてロイを
見下ろした。

……確かにこの童顔では、カイザー髭だろうと顎鬚だろうとなにを
はやしても子供が付け髭でもつけているかのような違和感を生じさ
せずにはおれまい。
目の前の上司の顔に、色んなヒゲを付ける図を想像したハボックは
湧き出る軽い可笑しみを、涼しい顔のまま押し殺し答えた。

「ノーです サー それに自分のコレは単に現場での不精を重ねた
結果でのもので 特に狙ってどうこうというものではありません」
「…そうなのか!? 良く似合ってるからてっきり拘りがあってのもの
なのかと…… そうかっそれは単なる無精髭の延長か」
「ええ こっちの方が手入れも楽ですしね それに俺も昔はヒゲが全然
似合ってませんでしたから 伸ばし始めたのもここ最近です」
おのれの顎鬚を指で梳きながらのハボックの言葉に、途端に上機嫌
になったロイは、顔を輝かせた。

「ハボック准尉でも似合うようになったのは 最近なのか…では私も
二年後にはヒゲが似合うようになる可能性もあるという事だな、うん
あ、いや男の価値は髭ではないぞっ 勿論それは解っているとも」

――俺の昔は十年単位の昔で、ヒゲを生やし始めたのは最近と言って
も今のアナタ様と同年代だった頃の計算になるのですが

経験値からくる分別で、その言葉を飲み込んだジャン・ハボックは二年
後に、髭を伸ばしてみようとしたロイに散々あたり散らかされる羽目に
陥るだろうと漠然とながら覚悟を決めるのだった。

だが、そこまでは考えられたハボックも自分が
「俺のモンはアンタの物 俺の『よく似合ってる髭』はロイのものでこれ
はロイの髭なんだから…イイじゃないスか」
とロイの耳元で、低く含み笑いで囁き返す仲になるとは、この出会いの
段階では当然想像だにしていなかった。