オマケ


くしっと小さなクシャミをして、ソファの上で横になっている大佐が二、三度
まばたきをした。
唇上あたりまで、俺の上着がかかっているから表情は読みにくいが、その
ままぼーっとしている辺り…多分、まだ寝ぼけているのだろう。

大股でソファ前に歩み寄り、普段は遠慮している来客用灰皿でわざと煙草
を潰し消し、大佐の目線に屈みこむ。
「ハイ オハヨーゴザイマス」
「む…帰ってきていたか……あと5分」
俺のわざとらしい挨拶も、どこ吹く風。そう呟いて、また目を閉じてしま
った大佐を揺り起こし、中尉が帰ってきてると告げると途端に大佐は跳ね
起きた。

「そ、そういう事は早く……」
弁明ならぬ言い訳を思いつかないらしい大佐は、俺の姿を見て軽く咎める
目つきになった。
「…ハボック 外では構わんが上着を着ないなら 司令部内では最低袖
のあるシャツを着ろ」
軍服のインナーとして、白もしくは黒のものを着ていれば基本可とされて
いるが、確かに黒タンクトップ姿は注意勧告ギリギリラインだろう。

――余談だが、明文化されていない袖のない服を着るなという理由が
『異性同性問わず劣情を催す者に刺激を与えぬため』だというのを聞いて
引いたのはここだけの話だ。…異性同性問わずの箇所が、恐ろしい。

「そうなんスけどねェ 俺の上着がみつかんなくて」
「だらしのない奴だな お前のことだから現場で脱いで どこか……」
わざとらしい吐息をついて、大佐は自分の肩からズレ落ちかけていた上着
を、無意識らしい動作で羽織りなおした。
そしてそのサイズの違和感に、気づいたのだろう。
説教モードに入っていた大佐の声は段々と小さくなり、代わりに頬の赤味
が見る間に増していった。

「大佐 俺の上着…ご存知ありません?」
自分でも意地が悪いと思える笑みを浮かべ、大佐の顔を覗き込む。
紅い顔をしたまま、悔しげに睨みかえす姿は…贔屓目を引いても可愛いと
表現できるだろう。

「炎天下の作業で喉渇いたなあ 大佐なんか奢ってくれませんかね」
「…茶でもジュースでもコーヒーでも買って来い ついでに全員分もだ」
1000センズの紙幣を叩きつけてきた大佐は、その間に俺の席に上着を戻し
ておこうという作戦らしい。
「了解 ありがとうございますサー …で、袖なしでうろつくワケにはいかない
んでコレ…返してもらいますね」
「なっ…お前… 解ってて……」
大佐の肩から上着を摘み取ると、大佐はわざと目線を外し真っ赤になって
黙り込んでしまった。

あまり拗ねられてもちょっと面倒だから、大佐の分はポケットマネーで
クッキーでも買ってくるかと、後ろ手に執務室の扉を閉めた俺は、目が
あったブレダに「楽しそうだな だが仕事しろ」と釘を刺されてしまった。

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明文化されてない某理由は出身学校に似たような校則があったのですよ… 当時引いたなあ(笑)
上着知りませんかとからかうバージョンで続きを…のお言葉を頂いたので、挑戦