余裕と不安/ハボ


我ながらどんな趣味だと思うが、かねてより一度行なってみたいと
願っていたのはジャン・ハボックでマイ・フェア・レディだ。

…誤解を招かぬよう言い添えるならば、別にあの男に女装をさせ
ミュージカルを行ないたいだとか、レディにしたて上げほくそ笑む
だのの趣味は、私には無い。

ただ、金髪青い目長身締まった躰という高級な素材を持ちながら、
持ち前の雰囲気と徹底したマイペースで周囲の視線を分散させて
しまうハボックを、磨き上げたらさぞ周囲の反応が面白いだろうなの
極めて単純な遊び心だ。

まずはあの奔放に跳ねた髪を、後方に流し固める。
前髪は数筋垂らしておく方が…うん、色気が出そうで悪くない。
あの男では機会もないし金も無いと、タキシードなど持っておらぬ
だろうからここは一つ恩を売る形にして、オーダーメイドで仕立て
上げる。金髪の映える黒…それとも一見黒にしか見えぬが、陽の
下で目を凝らしてみると、極めて濃い青だと解るダークブラック
ブルーなんてのも良さそうだ。

「……似合うじゃないか」
「そうっスか?」
隣国の王子が開く晩餐会とやらに、見栄えが悪くない警護役をと
乞われたので私とハボックが出向くことにした。
さっそくとばかりに着飾らせたハボックは、少々腹立たしいことに
今まで見たことのない顔だからか私より注目を浴びている。

おぉっ あそこにいるのは以前ハボックを単純だ力馬鹿だ粗野だと
影で誹っていた負け犬だ。
どうだあのマヌケ面は。お前如きでは100年経とうと外見も中身も
ハボックには及ぶまい。
少し良い気分になって、あの男の気が抜け呆けた面を見ろと振り
返れば、ハボックは数人の女性に囲まれ眉尻を下げた笑顔を
浮かべている。

…ハボックのくせに生意気だ。
私に従ってついてきているのに、何をやにさがった笑顔を振りまいて
いるのだみっともない。お前に必死にアプローチしているそのダーク
ブラウンの髪の女性は、三ヶ月前にお前が軍事演習後に通りがかっ
た時、汗臭いなどと暴言を吐いた無礼者だぞ。

いや違う、成金趣味のオヤジのように飾り立てたハボックをちやほや
する見掛けに振りまわされる馬鹿たちを、面白半分に眺めてやる
つもりだったのに…何故こうもイライラするのだ。

…別に二人一組での行動命令が出されているわけではない。
ならば私はこのイライラの原因から離れてやろうと、扉近くに立つ
警護兵に外の見回りに行くと告げ、ハボックに背を向けた。

外に出て、新緑が放つ新鮮な空気を大きく吸い込んだ瞬間、後ろ手
を捕まれた。
何事だと振り返るより先に、少し元気を失った声が頭上で響く。
「…ひどいっスよ 大佐 自分がお偉いさん方の相手疲れたからって
俺を人身御供にして」
「…は?」
「お偉いさんの娘とか どこぞの政界に名が利く人とかばかりの
集まりだから大佐 相手するのが面倒だったんでしょ?だからいつも
と違うのを連れまわしたら探りを入れられると思って俺にこんな格好
させて… それで置いてっちゃうんだからヒデェよなあ」

何を誤解しているんだこの男は。
お前が囲まれていたのは、おまえ自身に興味を持たれたからだ。
一人外に出て行ったのは、………えーっと……気分転換!そう
私は気分転換をしたかったからだ!決して、デレデレしているお前
を見ていてハボックのくせにといらついたからではない。

癪に障るから教えてやるものかと振り返った目に映ったのは、タキシ
ードを着た美丈夫の憮然とした顔。

……どうにも、金の毛並みの豪奢な犬がしょげた様子に似ていて
困る。

「その…だな 珍しくお前がもててるみたいだから 親切な上司として
席を外してやったんだ」
「珍しくは余計です …大体俺は今現在アンタにもてたいと思ってるん
だから その当人がいなくちゃ意味ないでしょう」
「そうか …うん、その……すまなかったな」

ご主人様の後を附いて行く犬は、どこまでも忠実だ。
「俺の全部は 大佐のものですから」
屈むよう手招きをして、頭を撫でてやったら途端に機嫌を直すこの男
は、自分だけを見ているのだと少し嬉しくなったのは当人には告げず
におこうと思う。

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先日の絵チャで 着飾ったハボックはもてる→それを見たロイは
という会話からの妄想ですMいら様元ネタ許可ありがとうございます〜
1話の予定だったのですが、長くなりそうですので別途の髭編に
続きます。