ネクタイ姿とTシャツ姿


「あー慣れないから首苦しかったー」
帰ってくるなり、ワイシャツの第一ボタンを外し襟元を広げたハボッ
クはネクタイを緩めた。街中の有力者が、とある情報があるのだが
軍人に出入りされると外聞が悪いと言ってきた為、軍服ではなく
通常の勤め人に見えるようの配慮で、今のハボックはスーツ姿だ。

「あ…」
 何かを言いかけて、そのまま固まっているロイを見たハボックは
怪訝に首を傾げる。
「何スか?」
「ん…あ、いやなんでもない」
「中途半端に声掛けられてなんでもないじゃ気になっちゃいますよ
何かあるんだったら言ってください」
 緩めかけたネクタイに、再度ハボックが指を伸ばすとロイが慌て
た様子で駆け寄り、その手を止めさせた。

「あの…だな お前がそういうスタイルでいるのが…珍しい」
 マジマジと見詰めるロイの視線は、新鮮だというより少し別人を
見ているかのような視線で、ハボックの苦笑を誘う。
「そういや 初めてでしたっけ大佐の前でネクタイ姿」
「ああ… 少し…大人びて見えるな」
「…嬉しいこと言ってくれますね」
 自分がロイより年下であるという点に、幾分かの複雑なコンプレ
ックスがあるハボックは、ロイを見下ろし目を細めた。

「そうだ ついでだからデートしてみません?」
「…は?」
「たまには違って気分でいいでしょ ついでだから大佐もいつもと
違う格好で外で待ち合わせしましょうよ」 
「違うと言われても…私はこういった系統の服しか持っておらん」
 ロイが言いながら引っ張るのは、現在身に纏っている白いカッタ
ーシャツと黒のスラックス。確かに日頃からリラックスをしている
時でもそんな服装であるのを知っているハボックは、解っていると
頷き返した。

「俺が普段の大佐みたいな格好してるんだから 大佐は俺っぽい
服装…ってどうっスか Tシャツなら多少サイズ違っても大丈夫で
すから俺の貸しますし ジーンズは一つ持ってましたよね」

「これで…いいのか?」
 慣れぬ服装からか、おずおずと出てきたロイはまるで…というより
学生の姿そのままだった。軍服やワイシャツといった服装が持つ
公的印象が薄まった分、どうしても年不相応である顔立ちの方が
目立ってしまう。
 普段かっちりと締まった首筋が露わになっているだけでも、視線
を引くというのに、サイズがハボック用であるため、大きく開いた
襟口であればどこか無防備さが漂い、尚更だ。

「鎖骨…見えるんスけど」
「仕方あるまい」
「首筋も丸見え」
「服がこうなのにどうしろというんだ」

「…やっぱデート中止 やめ!禁止!!」
 上機嫌だったハボックが、自分を抱き締め喚き始めたのを聞いて
ロイが不満げに唇を尖らせる。
「…そんな顔してるとますます お偉いさんには見えませんね」
「やかましい 大体お前がいきなり…」
「勿体無くなったんですもん 大佐のその格好を他の奴らに見せる
のが なんかいつもより可愛いし雰囲気違うし貴重品って感じで」
「……可愛いはいらん」
「可愛いかわいくないは俺の主観だからいいんです …それより!
大佐の好物作りますしデザートもお気に入りの店から買ってきます
…だから外出はなしでその姿で今日の残り時間 俺と過ごしてくだ
さい」
「…お前が一度いつもの服に着替えて買い物に行って 帰ってきた
ら またこの姿になるなら条件成立だ」
「…えーっと?着替えなきゃ駄目っスか」
 面倒だからひとっ走りで、用件を済ませてこようと目論んでいた
ハボックは、困惑混じりに後頭部を掻き上げた。
「…私だってお前のその格好を他人に見せてやるのが勿体無い」

 さもなくばお前の条件は呑んでやらずに、私もこの姿でお前の
買い物に付き纏ってやると主張するロイを相手に、緩む頬を抑えき
れなくなったハボックは、幸せが溢れた笑顔で「全面降参 無条件
仰せのままに従います」とホールドアップの体勢で、着替えを取り
に自室へと足を向けていった。

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こちらも絵チャで拝見したMいら様のTシャツロイ&ネクタイハボ素敵絵からの妄想♪