4コマ34のオマケ


言い出したのは誰だか解らぬままだが、秘密裏にかわされていた
メッセージは各部隊に浸透していたらしく、気付いたら現在
利用されていないA倉庫は、軍服の団体で埋まっていた。

「諸君!これを見たかっ」
丈夫な木枠の空き箱の上で、叫んだ男が掲げてるのは月間アメス
トリス7月号。
うぉーーーっ!と、地鳴りにも似た低い雄叫びが収まるのを待ち
男は続けた。
「諸君!この雑誌はすでに売り切れだ それほどマスタング准将
は一般的にも支持されている! だがっ!現在のあの姿は……
どうだろうか!?」
「誰かやめさせるよう説得してくれえっ!」「同感っ!」
「あのヒゲは極めて遺憾の意でありますっ!!」

「……何やってるんだ、ハボック…っつーかお前ら」
基本同意なのだけれど、あのノリにはどうも付いていけない俺が
倉庫扉で座り込んで番をしていると、ハムサンドを咥えたブレダ
が呆れた表情で、声のほうに目線を向けていた。
「マスタング大佐のひげをやめさせる会発足中」
「はぁ?」
「月間アメストリスで投票始まっただろ」
「…ああ、あの准将のヒゲ云々ってヤツか」
「そうそれに必要な用紙を集めまくって 髭無しに投票しまくろうぜ
作戦」
「まあ…あの人もスタイル気にするからなあ…5割以上が髭無し
とかに集計きたら…大人しく剃るだろうな」
「だろ?中央では色々あったからな 雑誌は売り切れてもう
手に入らないんだ」
「…それで色々手を尽くして探そうという訳か…」

あほらしいと思いつつも、あの髭はどうよという意見はブレダも
同じだったらしい。
個人的に知っている存在であるとか、身近にいる存在だから云々
を差し置き、童顔にあの髭をはやしている姿は違和感で背中が
微妙に気持ち悪いとは、ものすごくうまい表現だと思う。
……きっかけが自分の髭だと思うと、余計に居心地悪い。

じゃあセントラルでの活動はあいつらに任せて、俺らも少し手を
廻してみるかと、ブレダも手を振って電話へと向かった。
様々なツテの第一は、やはり身内と知り合い。
北方で売れ残りの月間アメストリスはないかと、ファルマンの方
に連絡を取ってみると、「…アームストロング准将が大笑いして
全員 もじゃ髭に投票しろと雑誌を買い占めていました」

エルリック兄弟の所に電話をしてみると、
「…すみません …大笑いをした兄さんが近辺の月間アメストリ
ス全部買い占めて 泥棒髭に丸をしてもう投票してしまって…」

「…まさかと思ってよ 秘密裏ルートを辿ってシンにも連絡して
みたんだよ…」
低く囁くブレダの声の、続きを聞くのが妙に怖い。
「まさか シンにまであれが出回ってるのか!?」
「いや流石にそれは大丈夫だった でもエドワードが一冊こっそ
り送ってたらしくてな…真面目な声で 俺もまだ髭似合わない
けど…元大佐も似合ってないと思うヨ〜と返されて脱力したわ」

国外の者にまで、准将の髭の話題は出回っている。
しかも…表現を控えてくれて入るが、どちらかというと失笑に近い
温かい笑みを浮かべての感想は…こちらの国の者とほぼ同意見
らしい。

――これ以上、准将のヒゲ姿を晒してなるものか…!
それを聞いた、イシュヴァールの頃の部下たち筆頭に、マスタン
グ准将を慕うもの達は、定価の数倍を払っても投票用紙を手にし
結果8.5割を超える「マスタング准将は髭なしで」の結果を叩き
出した。

「………わかった………髭は、剃る……」
少し寂しそうに、鼻下を指で探る准将は髭が生えていても可愛い
が、……ないほうが数倍可愛いと思うので、ここはあえて慰め
などを言わず、ぐっと自分の意見を耐える。
「参考…までに聞きたいのだが……二位はなんだったかね」
「猫ひげです 准将」
控えていた副官殿は、内容を見ないままさらりと答えた。
俺の知らぬ間に、既にチェック済みだったらしいのは流石だ。
……あ、落ち込んだ。

俯いた准将は、一生懸命そろえたヒゲがあくまで周囲に不評だと
トドメをさされ、ちょっと不憫だが…やはりヒゲをやめて欲しい
俺は黙っていることにした。