その声その後



「え……大佐?」
 来客だと言われて出てみればそこにいるのはセントラルにいるはずの黒髪の元上司で。
しかも魂を揺さぶられるいつもの光がその黒曜石の瞳に宿っていない事に顔を合わせた瞬間気づいたハボックは、
ロイの傍らに立つブレダに噛みついた。
「どう言うことだよっ、ブレダ!」

 聞いてねぇッ、と喚くハボックをブレダが何とか宥めようとすればロイが口を挟む。
「久しぶりに顔を合わせたというのにぎゃあぎゃあと煩い奴だな。目が見えないくらいどうって事ないだろう」
 平然とそう言い放つロイにハボックはカッとして言った。
「何言ってるんスか、アンタ。大体何しにここに来たんです?」

 不安に駆られてかけた電話で『迷うな、ここへ来い』と言ったのはロイだ。その言葉に背中を押されて必ずロイの
隣に立つと決心したハボックではあったが、流石にもう少しリハビリに目処がついてからと考えるうちにロイがハボック
の実家の雑貨店にやってきてしまったのであった。
「決まってるだろう?お前がぐずぐずしてるから迎えに来てやったんだ」

 そう傲慢に言うロイの言葉を聞いてハボックがブレダに視線を向ける。それに肩を竦めてブレダが答えた。
「一応止めたんだぜ、待ってた方がいいって」
 でも、きかねぇから、とため息混じりに言うのに顔を顰めてハボックがロイに言う。
「別に迎えに来て貰わなくたってちゃんと行きますよ。それより目が見えないアンタがこっちに来るなんて危ないじゃないっスか!」
「待っているのは性に合わない。それに目が見えなくたって気配で判る」

 かつて側にいた頃、無謀にも前面に出てくるロイに文句を言えばいつも返ってきたのと同じ言葉をロイは口にした。
更に続けられた言葉にハボックはムッと唇を歪めると何も言わずに手をロイに伸ばす。軍人にしては細いその手首をグッと
掴むなり自分の方へ引き寄せた。
「うわッ?!」
 突然腕を引かれてロイは抗う間もなくハボックの胸に飛び込んでしまう。ロイは顔を真っ赤に染めて見えない目で
ハボックを睨んだ。
「何するんだッ!」
「気配なんてちっとも判ってないじゃないっスか」
「それはお前だから……ッ」

 言いかけてなんだか照れくさくなってロイは口を噤む。照れくささを誤魔化すように顔を背けて言った。
「とにかくすぐセントラルへ来い。お前のリハビリに役立つ代物がある」
「オレの?オレより先にアンタを何とかしなきゃっしょ?」

 退役した軍人なぞよりこのたびの功労者である准将の傷を癒す方が先の筈だ。ハボックがそう言えばロイが眉を寄せて言った。
「四の五の言うな。いいから一緒に来い。お前が来なければ私はこの目をどうこうする気はないからな」
「……ったく、そういうとこ、全然変わってねぇ」

 相変わらずなロイの物言いにハボックは思い切り舌打ちする。
それでもここで行かないと言ったら本当にロイは自分の目の治療をしないだろうと察して、二人のやりとりを半ばうんざりしたように
見ていたブレダにハボックは言った。
「ブレダ、セントラルに行くから車椅子押してくれ」

 そう言えばハボックの腕に身を預けていたロイが立ち上がろうとするのをハボックは引き留めて抱き寄せる。ハボックの膝の上に
横抱きに抱えられて、ロイは顔を赤くして言った。
「おいっ、車椅子を押して貰うんだろう?だったら離せッ」
「嫌っス。目が見えないアンタを一人でふらふら歩かせる訳にはいかないっスから」
 離せと騒ぐロイと、立たせまいとするハボックがぎゃあぎゃあと喚き合うのを見て、ブレダがうんざりとして言う。
「ハボ!大佐離せよ、二人も乗っけて押せる訳ねぇだろうが!」
「その太い腕は何のためについてんだよっ、いいから押せッ」
 少なくともバカップルを乗せた車椅子を押すためについているのではないと思うブレダにロイが言った。
「押さんでいいからなっ、ブレダ少尉!ええい、いい加減離さんかっ、ハボック!」
「絶対離しませんッ!早く押せ、ブレダ!」
「押すなよッ、少尉!」
 狭い車椅子の上で揉み合うバカップルの姿を見下ろして、このまま二人とも置いて帰ってしまいたい思うブレダだった。




ちょwwwwwブレダ不憫wwww 車椅子でラブラブしちゃう二人は大変素敵ですが、まきこまれるブレダが可哀想過ぎてとても大好きです!
まっすぐにハボックを思い行動しちゃうロイと、心配のあまり怒鳴っちゃうハボックのやり取り 大人な二人の本心が飛び出しちゃうシーンが
それぞれ可愛くて…!続編まで貰っちゃったですよ!!ありがとうございます!!

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