4コマ33のオマケ


このままでは自分のやっていることが、どう解釈しても不審人物もしくは
イタズラ電話の主ではないかと思い悩んだロイが、再度の電話を決意した。

今度はハボックの母親が出たとき対応、父親が出たとき対応、そして本人が
出た時バージョンすべてを脳内でシミュレーションしており、完璧だと自負
するロイ姿はズレてはいるが、輝いている。

休憩時間になるのを待ちわび、時計の長針が12を指すと同時ロイは個人執務
室に鍵をかけた。

トゥルルルル…何回かの呼び出し音が切れ、受話器を取る音に切り替わる。
「はい ハボック雑貨店です」
電話の主の声は、記憶の中にあるものとよく似ているが、少し低く渋みが深
かった。
これは、父親が出た時バージョンの対応で良かろうと判断したロイが、にこ
やかを装い、続けた。
「初めてのご挨拶が電話でとなり 申し訳ございませんジャン君のお父上…
ですか?私は……」
「いや、俺は父親じゃなくてジャンの従兄弟」
わずかに笑いを含んだ声に、ロイは自分の想定していた会話が外れてしまっ
たと言葉に詰まる。
「――すみません また改めて電話をします」

別に切らずとも、そのままジャン君はおりますかと続ければよかったのだが
3パターンでいっぱいいっぱいだったロイは、再度掛け直す気力もなく書類
の散らばる机に、突っ伏した。 

再度の挑戦は、執務時間終了直後。
勿論残業はあるのでまだ帰宅はできないのだが、その時間での私用はお目付
け役も見逃してくれると、こっそりロイは中庭に出向いた。

中庭にある電話ボックスは軍部の回線ではなく、外来者用の者で普段の利用
頻度は低い。
今度は『ハボックの従兄弟が出ても大丈夫対応』も追加して考えたロイが、
ゆっくりともう暗記してしまった番号を回す。

「はい ハボック雑貨店です」
妙齢の女性の声。…このパターンは脳内で対応が無い。
「……すみません ハボックさんの…ご家族か親戚の方でしょうか」
今度は誰だどれだけの大人数が働いているんだ雑貨屋と、軽く困惑したロイ
に電話の相手が、自分はアルバイトだとにこやかに返した。
「あ…えっとでは…そのハボック…さんをお願いします」

よしっ!想定とは異なるがこれでやっとハボックの声が聞ける!
強く受話器を握るロイに、遠慮がちな声が訊ねた。
「あの…みなさんハボックさんでして…どのハボックさんでしょうか?品物
をお求めでしたら よろしければ私の方でも探しますが」
「あ、いや……(ご、ご両親に対して息子さんをお願いしますと告げる形にして
本人には久しぶりだなと返す形、従兄弟とやらにはイトコのハボック君は在宅
かと訊ねようと考えていたが…名前を呼ばなくてはいけないなど想定外だっ)
ジャ……ジャ……」
「蛇腹ホースですか?」
「そ、そうっそれだ!」

…いや違うと横に誰かがいれば、冷静にツッコミをいれてくれたであろうが
あいにく現在ロイの周囲に人気は無い。
「そちらはお取り寄せになってしまいますが…」
申し訳なさそうな女性店員の声に、逆上しかけていた状態から少し落ち着い
たロイがあわてて訂正を入れた。
「あ、いやちがっ…そうではなく…ジャ…ジャン…さんを」

元上司とはいえ、他人様の家に電話を掛けて呼び捨ては拙かろうと急いで
敬称をつけたロイに返ってきたのは、申し訳なさそうな声だった。

「ただいま仕入れの処理で 席を外しておりまして…折り返すようにお伝え
いたしましょうか?」
「いえっ 忙しいでしょうからまた連絡いたします」

休憩と言い張れる時間はもう過ぎようとしていて、肩を落としたロイは寂しく
部屋へ戻った。

「ジャン 今日もロイさんから電話あったわよ?代わろうかと言う前にまた
電話しますって切られちゃって…いい加減お前から掛けてあげたら?」
「あ、私もジャンさん宛に取りました」
「あージャン 俺も取ったぞ なかなか初々しい反応でかわいいな」

「…一応あの人 国家レベルのVIPなんだけど」
「そのVIPがあんな一生懸命だからかわいらしいんじゃないの ねぇ?」
苦笑を浮かべたハボックは、そうは言いつつも周囲に賛同を求める母の言葉
を否定はしない。
国家レベルの英雄は、ハボック家の中では愛でられるマスコット的に好意を
寄せられていると今も知らず、今日も新たな会話パターンを考慮していた。


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アニメ最終回でハボの台詞お願いしますと今日も祈願