最終回余話 6


「ご主人様に追いついたご褒美に…何かくれませんか?」

もうイヤだ書類をみたくない、分類したくない、サインを書きたくないと
ゴネはじめた上司に、話題転換もかねてハボックは机に肘をつき
覗きこんだ。

「あぁ?」
地を這うような低い聞き返しは、相当にすさんでいる証拠だ。
苦笑をしたハボックは、ここで挫けるようではロイの側近は務まらない
と、知らぬ顔で続ける。
「ご主人様の元に戻った犬は、まず大喜びで顔舐め回しますけど」
「…私の顔を舐めつくしたいのか貴様」
「いえ まったく」

咥えていた煙草を指に持ち、しれっと細く煙を吐くハボックを、机に
突っ伏したままのロイは、胡散臭げに視線だけを向ける。
「では何か いーこいーこと褒めて欲しいのか 頭撫でて欲しいなら
撫でてやるぞホレ」

突っ伏したポーズのまま腕を伸ばし、イスのキャスターを利用し後部
に下がったロイは、自身の腿をぽんぽんと叩き、ハボックに頭を置く
よう促す。
露骨に嫌な顔を浮かべているのは、その行為が嫌な訳なのではなく
自分が褒美をくれと言い出したせいだと察したハボックは、鼻先で
笑った。

「准将ってば俺の頭撫でるの好きなくせに 何でそんなヤな顔して
んの?」
「…生意気な犬は嫌いだ」
一時のリタイア前、ロイが時折大型犬を愛でる感覚でハボックの頭を
撫で回して和んでいたと記憶していたハボックは、その言葉に動じず
少し肩を竦め、煙草を携帯灰皿へと押し込んだ。

大股な一歩でロイの横に並んだハボックは、その脇にしゃがむと
ずいっとロイ顔を近づけた。
「これ、嫌いっスか?」
指差したのは、ハボックの顎に整うヒゲだった。
「………べ、別にそれが……嫌いなんじゃ……」
「今の俺は嫌いじゃないレベルだけど……撫でてくれますって?」
「お前は、いったい、何が、したいんだ」

どうもヒゲの生やしたハボックの顔に弱いと、自覚してしまったロイは
それを意識するあまり、言葉がたどたどしい。
頬を赤らめ、目線をそらすロイにハボックはニッと笑う。

「俺が欲しいご褒美は アンタの休息ですよ 寝てないしメシ食って
ないし…あーあ体ガチガチじゃないっスか」

背凭れに手を掛け立ち上がったハボックは、イスの後ろに廻りロイの
肩を揉んだ。
鍛えられた指先が、体を解すツボを巧みに刺激し、ロイから力を奪う。
「ん…気持ち…、いい… あっ…そこ…」
「その声 ベッドで聞かせてもらえるのが一番のご褒美なんスけど…
今日はまあ我慢しておきます」

ハボックのマッサージに心地好くまどろむロイは、後日「ご褒美じゃなく
ツケの利子払いお願いしますよ」と、寝室で同じ台詞を要求されることに
なるとは、まだ知らない。

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前もって逃げの言い訳 ツケの支払い編は汁気も色気も不足な私ではかけません(笑)