アニメ最終回余話


ヂリリリッ
少し調子の外れた呼び出し音は、この方が通常より聞えやすいと何年も
放置している電話のものだが、いまだに壊れることなく頑張っている。

「はい ハボック雑貨店です」
さて今日は2丁目のスミスさんの瓶1ダースか、ワイズさんトコの犬用
お取り寄せリード引取りだったかと取った電話は、旧知の友人だった。

「よぉ店長 配達お願いしたいんだが」
「…相変わらず 無駄にセクシーヴォイスだなブレダ」
「無駄は余計だ」
「えぇっ ブレちゃん無駄にしたくないって事は…俺をその声で落としたい
と狙ってるの!?参るなあ…」
「アホ その様子なら変わりないみたいだな」
「おぉ元気だよ…で何の用事だ?」
暇な時なら莫迦話もいいだろうが、現在セントラルはまだまだ動乱が
納まったばかりで、無駄な用事で電話をしてくるはずがない。

「最初にいっただろ 配達希望だ」
「…ヤバい品ってことか?」
中央、しかも現在の大佐…いやいまや准将か…の元にいるのなら手に
入らない品なんてないだろうの俺の疑問に、ブレダが軽やかに返した。
「お前を一丁 セントラル病院まで頼む」
「…は?」

「……っ!」
「どうだね?私の手が置かれていると解るかね?」
訳のわからぬまま錬成陣の上に座らされた時は、何の実験だと心底
不安だったが、直後膝に当てられた手の感触を感じた時の驚きは一生
忘れないだろう。
ブレダがニヤリと笑って、「激務がお前を待ってるぜ」と告げた。

自分の両脚が動く実感より先に、「さて…これでマスタング准将の治療
に取り掛かれるな」の一言に心が揺らいだ。
「どういう意味っスか!?」
「落ち着けハボ …大佐…じゃなくて准将かあの人は今目が見えない」
「目が…って なにお前は落ち着いてるんだ!」
「准将がわがまま言うんだからしょうがねえだろ ハボックの治療が
すまない限り自分の目は後だって」

感覚を取り戻したといっても、落ちた筋肉は自分の意思で歩みを許して
くれなく、車椅子での待機。
治療の為だからと、病室外で待っていた俺に、笑顔のマルコー先生が
「成功したよ」と肩を叩いて部屋へと押してくれた。

変っていないサラサラの黒髪と、現場で活躍する軍人の割には細い
肢体。入院服のせいで、普段は隠れている素肌が白く眩しい。
…あぁ、記憶の中のロイ・マスタングだ。

再会した大佐…もとい准将の第一声は久しぶりだなでも元気だったか
でもなく、俺を指差しての「髭っ!!」だった。

――いや、感動の対面を期待していたわけじゃないけど…もう少し
雰囲気あってもよくないかとちょっと愚痴ってみる。

「…どんな感動の再会かと期待してみたら…いきなり髭っすか」
なんだか何もかもどうでも良くなって、こみあげてくる笑いを抑えられ
ない。自暴自棄の時もどうでもよくなったけれど、これは違う。
「いや、だってお前…髭…が…」
落ち着いたであろう准将は、気まずげに目線を逸らす。
「…ただいま 戻りました」
「ああ……おかえり」
この人の、笑顔が目の前にある。

「目が戻ったことだし… 病室は別にせねばならんな」
コホンと咳をする准将に、ホークアイ大尉はニッコリ微笑んだ。
「別に私は構いませんよ 勿論返り討ちはさせて頂きますが」
「…ブレダ ハボックもリハビリは必要だからこのベッドはハボック用
にして…彼女は別室を手配してくれ」
「アイ・サー」
クククと声を抑えて笑うやり取りは、記憶の中に封印していた光景だ。
やっと今、自分が追いつけたのだと実感をして鼓動が早くなった。


その後、同室の俺はしばらく「髭が似合うからっていい気になるなよ」
だとか「…やはり髭…か」だのしばらく絡まれたのは、ここだけの話。

退院後、私にも威厳をと生やし始めたマスタング准将の髭は、周囲に
大変な不評で、数日で剃り落とす羽目になったのだが……それは、
俺のせいじゃないと思う。

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アニメ最終回からの色々妄想
男女で同室はいいのかとか、セントラルまで呼んで治療したのかとか
自分よりハボック優先させたよロイってば!!とか色々妄想詰め込み
しかし…最後に髭はない…でも絵茶で「あれは写真に落書きだったんですよ」の素晴らしい説が
でて全 力 同 意 です!!