半分パジャマ

 普通逆だろ!?俺が上を着てどうするんだ。
サイズの合わないシャツを纏ったいわゆる彼シャツ姿、――襟元や
袖口から覗く肌色を楽しみたかったのに、なんで丸出しなんだよ。
そう主張しようにも、そもそも基本を理解していない大佐に説明する
のは、とてつもなく困難だ。

「大佐ぁ …えーっと…こういう場合俺がズボンで大佐がシャツを
着るって言うのが定番なんスよ …着替えてくれません?」
「いやニャ」
――間髪いれず瞬殺かよ
「大佐は暖かい格好のほうが好きじゃないスか なんで上半身裸に
なる方選んだんスか こっちのシャツの方がいいスよ」
ほらほらと水色縦縞パジャマ上を差し出せば、眠りかけたところを
起こされたせいか、うとうとと大佐の瞼は落ちかかる。
一応お返しという名目なんだから、普段の大佐なら多少の融通を利か
せてくれるはずなのに、なぜ即座に断られたのかと理由をきかねば
納得できない俺は、大佐を眠らせずくいかかった。

「めんどくさい」
「……納得しました」
なるほど、シャツについてるパジャマを一つ一つ外してまた着ると
いう作業よりは、脱いで穿くだけの下衣のほうがよっぽど楽だ。
「それにこれなら潜れば寝袋みたいなものだけど そっちは寝返った
らこんがらがりそうではないか もういいか…私は寝るぞ?」

 俺の普段着ているTシャツなどは、司令部の購買で購入できるため
適したサイズなのだが、パジャマといった業務に関係しないものは
どうにもなかなか販売していない。
一般人よりデカい男の宿命プラス、とてもオーダーメイドなんて薄給
には無理だという事情から俺の室内着などは、肥満体型用…つまり
XLだとかXXLだとかいうサイズになりがちだ。
家で過ごすのならば、多少ゆったりしているのは障りにならないから
だけど…確かに、これを着て寝たら大佐は起きたらぐるぐる巻き拘束
になっている可能性は高そうだ。

「あっ」
 上着ほどではないとはいえ、ずるずる裾を引きずる羽目になって
いる姿で歩いていた大佐は、足をもつらせ転びかけた。
「…っぶね セーフ 大丈夫っスか?」
「ん…」
あ、こりゃもう駄目だ。大佐の目は完全に睡眠モードに入ってる。

――仕方ねえか、今日はもうあきらめて上だけを羽織って寝るか
…自分で自分がどんな格好しているか想像したくねえなあ…
そう思って大佐を抱えてベッドに入れば、大佐は胸元にすりっと頭を
こすりつけてきた。
 袋状になっているとはいえ、パジャマと違って肩が出ているから
少し寒いのかもしれない。
ならば毛布を引っ張り上げて…と手を伸ばしたら、寝ぼけている大佐
は俺のパジャマに潜り込んできた。
「たた…大佐!?」
「…暖かいニャ……」


 そう言ってから、ことんと俺の胸上に頭を落とした大佐の気持ち
良さそうな寝息。
「まあ…これはこれで幸せだからいいか…」
本格的なパジャマはんぶんこは、錬金術師バージョン大佐にお願い
しようと目論む俺も、規則正しい寝息に誘われいつしか気持ちの良い
眠りに落ちていった。