逃がさない


いつのまにか、壁際に追い込まれている。
それだけじゃ足りないとばかり、更に閉じ込めるようにイギリスの腕は
壁へと伸ばされ掌をつき、日本はその胸元へ触れた。

同じ仕立てのシャツを着ているのに、胸襟ボタンが二つあいただけで、
貴族的でありながら、野卑な雰囲気をまとわせているのは、彼がまた
古き時代の性質へと変化していたからだ。

ぎりぎりまで近づいた、空間。
日本が見上げた先には、宝石を思わせる美しい瞳。
緊張ととまどいから、小さく鳴った日本の喉の音を聞き、その目は細め
られた。
捕食者が、獲物をとらえた笑み。

「もう気付かないフリは終わりにしてもらおうか」
耳元で囁くその声は、やさしさと愉悦が入り混じっていて、日本を竦ませ
る。
「な、何をですか?」
「…こうすれば解るか?」
日本の脚の合間に、イギリスの右足が入り込み、壁にさえぎられ逃げ場の
ない腰同士が密着した。
わざと摩擦させるように押し付けられた股間は、海賊の悪戯心だろう。
だが日本の心拍数は跳ねあがらせるには十分で、その顔は瞬時に羞恥で
染まっていった。


普段であれば他人の熱など意識しない箇所だ。それだけでも日本を困惑
させるのに、唇の端をあげたイギリスは、壁についたのとは反対の手で
日本の顎を掬う。
予期していたが覚悟はなかった日本は、小さく首を振るしかなかった。

「あ、あの、ちょっ…お、おち おちついて…!」
「落ち着いてないのはお前だろ」
「あのっ違っ…そそそそうじゃなくてっ あの、腰とかぶつかってます」
「ぶつけてるんだよ」

まだ解らないのかの囁き声は、完全に楽しんでいるもので、顎を掴んで
いた指はいつのまにか壁と背の間に入り込み、日本はイギリスへと
抱き寄せられた。

「わわ、わかりました!わかりましたのでっ… 脚、ダメ、NO!」
あわあわと涙目になって身をよじる、日本の抵抗にイギリスの表情は
かわった。
耐え切れないとばかりに小さく吹き出し、その表情は素直な享楽を得た
ものになっている。

「わかったのなら…今日はそれでよしとしてやるよ」
何らかの契約をかわすように、日本の耳を甘噛みした海賊紳士はそのまま
両手を広げ、日本を解放するポーズに変る。

大丈夫かと探るように眼差しを向けた日本に、返されるのは楽しんでいる
海賊の明るい表情。
恐る恐る日本が壁から離れ、部屋の中央に戻ろうとイギリスとすれ違った瞬間、
そのうなじに落ちてきたのは柔らかい口接けだった。

「ひぁっ!?」

油断していた日本のひっくりかえった悲鳴に、イギリスはもう一度笑った。

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ゴールデンウィーク中になぜか多くの方に海賊紳士頑張れメッセージを頂いたので
頑張ってもらいました(笑)