| もう一人自分が欲しい。 その日の書類処理をようやく終え、机に突っ伏したロイの言葉に ファイルを棚へと戻していたハボックが、振り返った。 あとは報告書を庶務課へ持っていけば、今日の業務は終了だ。 「何スかいきなり」 「お前は思ったことがないか?自分がもう一人いれば 仕事の処理 は二倍だぞ…給料だって二倍だ」 「……二倍貰っても二人で分けたら、結局普段の給料じゃないっ スか?」 多分…いや7時間ぶっ通しで、サインと印鑑押しを繰り返していた ロイは、まだ帰宅準備が面倒だと雑談に興じているのだろう。 ロイの片付け兼棚の整頓をしているハボックは、半分は聞き流し 半分は『夏休みの宿題提出直前に そんなことを思っていたっけ な』と、火をつけていない煙草を咥えながら思い出していた。 「む… まあそうだが…仕事が速く終わった分休憩だって多目に 取れるし!」 「…大佐が二人いたら中尉はその分 倍の仕事を持ってきてくれ そうな気がしますが」 「夢のないヤツだ つまらん」 「実際にアンタが二人いたら…お互いに仕事押し付けあって両者 逃亡…俺が苦労させられる気がしますねー」 あさってを向きながらのハボックの答えは、的を射ていたようで 伏したままのロイは無言だ。 「まあ…その…なんだ 一人捕まえれば仕事はこなせる お前は 獲得チャンス二倍でお得になるじゃないか」 ようやく反論を思いついたらしいロイの言葉に、ハボックはそう きたかと苦笑した。 「俺はアンタ一人のお相手で手一杯っスよ」 「なんだ甲斐性なしめ両手に花だぞ それ位の我慢しろ」 …何を想像したのか、ぴたりと止まったハボックの耳は紅い。 「こら貴様 何を考えている」 「アンタが言い出した事でしょうが 痛っ背中蹴らんで下さい」 「フフンッ ハボックが二人でなくて助かったよお前を二人相手 では体が壊れるかもしれん」 「うっわー…今すっごいエロい図想像しちゃったー 大佐ってば えっちー」 「ちょっと待て この場合エロ魔人はお前だろう何故私がスケベ 呼ばわりされねばならんのだっ!」 「…私が二人いれば、常に書類の提出時間を見張っていられるの ですが」 なかばじゃれ合うようにしていた会話は、冷静な女性の声で断ち 切られた。 「ちゅ…中尉…」 「大佐 私は23:30までに提出をとお願いいたしませんでしたか」 ロイの正面柱上部にある時計は、現在23:45を示している。 「うんっいや今持っていこうと思っていたんだなあハボック?」 「え? そんな会話してましたっけ」 しらっと煙を吐くハボックの台詞は、あきらかに楽しげだ。 「もういいっ行ってくる!」 書類を掴み、脱兎の勢いで走る抜けていくロイの様子は、いつ見 ても軍部のお偉いさんであるとは思えぬ様子だ。 「…大佐が二人いたら 私達の気が休まる時はなくなるわね」 表情変わらず、語りかけるでなく一人ごちるでなく呟く、ホーク アイの表情が、悪戯小僧の頃だった自分を叱る母に重なりハボッ クは笑った。 「そうっスね …サボったりぐらいならいいですけど、…一人 命狙われそうなところに突っ走ってきそうで怖くて仕方がない」 「実験だとか言っておかしな真似しないように監視よろしく」 ロイの残していった黒コートを渡すホークアイは、玄関にもう車 を廻してあるからと、それで帰宅するよう告げた。 「それでは お先に失礼いたします」 「遅いっ!」 玄関にロイの姿が見えないと、周囲を見渡したハボックはロイが 既に車横に立っているのを見つけ、駆け寄った。 「…やっぱ 二人は手に余るよなあ…すげえ幸せな図には なり そうだけど」 ボソリと呟いたハボックの言葉は、幸いロイには聞こえなかった ようで、首を傾げられた。 「何か 言ったか?」 「俺一人に アンタは一人で充分ですって言いました」 「……まあ、安心しろ 私が二人に増えるときは…お前も二人に 増やしてやる」 ロイの言葉は、ホークアイが懸念していた事態をそのまま具現化 していて…説教はガラじゃないんだがと、小さく息を吐いてハボック はロイへと向き直った。 *********************** ハボはジャクリーンのおかげで、素敵な二人バージョン二次創作を拝見できますが、 ロイの二人バージョンはあまり見たことないなあと書いてみた (あ、ロイとにゃんぐは別として) …甲斐性なし呼ばわりされていますが、ハボなら二人相手平気じゃないかなあ(笑) |