鼓動操作


本日のマスニャング大佐は、いつもに増して落ち着きがなく俺の
後ろをうろうろしては、考え込むようにとまり、しばらくしたら
また動きだす。
最終的には俺の膝上に乗っかろうとして、中尉にいい加減書類処
理をしろと首根っこを掴まれて、執務席に座らされていた。

基本自分の書類作成は苦手なんだけど、大佐の小さい手がペンを
握って、肉球スタンプをぺたぺた押しているのを見るのは、なん
だか和んでキライじゃない。

ただ…今日はどうも大佐と視線が合ってしまい、落ち着いて鑑賞
できないのが残念だ。
書類処理の合間合間に、飛んでくる視線を感じるのは俺の気のせ
いじゃないようで、ブレダがペン軸後ろ部分で俺を突付いて
「お前何かしでかしたのか」と小声で尋ねてきた。

「いや…俺も心当たりないから考えてるんだけど」
「昨日…の現場に出動してから変だよな マスニャング大佐」
「そうなのか?」
「ああそうか お前はそのまま現場片付けしてたから知らないか
錬金術師バージョンの大人姿の時から顔赤くしてたんで…中尉が
熱があるのかとか心配してたんだけど…現場では別に大丈夫だっ
たんだろ?」
ブレダの言葉を聴いて、その場でロイの変調に気付いてなかった
ハボックが、不覚と眉を顰めた。

「俺と一緒にいたときは…別に普通だったけどな ちょうど大佐
が狙われてたから、庇ったけどそれぐらいで…」
まあその庇う形が、たまたま抱きしめるような姿になった上、顔
が密接といっていいぐらい近づいたんだけど…それは別にブレダ
に話さなくてもいいだろう。

――ひょっとして…大佐は女好きだし、大人バージョンで男と
あんな形になったのが不本意だったかな

ならばさっさと謝ってしまおうと、顔を上げたところでまたロイ
とハボックは目が合った。
「大佐 お話が…」
「私も ワンと話したいと思っていたところにゃ…個人執務室の
方で構わにゃいな?」
二人連れで個室に入り、扉を後手に締めた後、お互いに口を開く
きっかけがなくしばし見詰め合った。

「「あの…」」
見事なユニゾンで、声が重なる。
「大佐からどうぞ」
「にゃ…お前から先で構わんぞ?」
「いえ、先に大佐のお話を聞いて…すっきりしておきたいので」

「お前…!実はれんきんじゅちゅを操れるんじゃないのか?」
しばし悩んでいた様子の後、マスニャング大佐はやっと言った。
錬金術の発音がれんきんじゅちゅになってるのは、あえて突っ込
むまい。
というより、大佐の発言が突飛過ぎてそれどころではない。
「は…?」
「だ…だって!昨日から私は変にゃのにゃっ!おっきい姿でお前
にぎゅっとされてから心臓はドキドキするしなんだか顔も熱いし
…だから ずっと考えてやっと解ったにゃ!ハボックは人の鼓動
を早くする錬金術を使えるんだにゃっ」

…脱力。

そのまま膝と掌が床上にへたり付きそうになりそうな体を、なん
とか気力で保ちつつ、大佐の両脇を抱え持ち上げる。
「…俺は 錬金術なんて高等な技無理っス」
「にゃ?…だ、だって…今だって……」

顔を紅くしてるマスニャング大佐は、普通に可愛い。

だが新たに生まれた俺の悩みは、この姿の大佐は一応俺より年上
な筈だけど、夜の営み時は…手袋つけたままじゃないと俺は犯罪
者だよなという事と、それって凄くフェチな行為じゃないかの点
だった。