問題は中身


「大佐ってば本当 見掛け年とんないっスね」
マスタング組と称される俺らが、まだようやく全員揃ったばかりの頃
に撮影した写真が出てきて、思わず目の前の人物と照らし合わせた俺
の台詞に大佐は盛大に眉を顰めた。

丸っこい目をしたフュリーも、大佐に負けず劣らず童顔であると思うが、
それでも今ではこの写真の頃より、幾分か大人びた顔付きになって
いるし、俺やブレダやファルマンも大佐に鍛えられた…振り回された
とも言う…おかげで、色々逞しくなっていると思う。

女性であるホークアイ中尉だって、髪型だけでなく漂う雰囲気とか
どこがどうとは表現しがたいのだけれど、並べれば明らかにこちらの
絵面が過去のものだと解る。

…だがロイ・マスタングこの人は。
「うるさい お前が年相応だからといってイバるな」
「…いや別に威張ってるつもりはありませんが」

上目遣いに睨んでくるその顔も、子供が膨れたときの表情のままで
幼い顔付きに拍車をかけてるんだけど…、それを指摘したら多分間髪
おかず、脛に蹴りが入るだろう。

「だいたいっ!老けて見えるより若く見えるほうが良いではないかね
古来人類の最終欲望といえば不老不死 それの実現は無理としても
若く見えるというのは不老に近い優れた点ではないかっ!」
「…大佐 俺は一言も若く見えるのが悪いだとか言った記憶ないっス」
「うっ……」
コンプレックスから自爆をしてしまった大佐の、言葉に詰った顔は普段
あまり見せてくれない表情で、正直少し嬉しくなる。

「自分で言ってた通り、若く見られるのって悪いことじゃないでしょ
…何がそんなに嫌なんスか?」
「…お前みたいにデカくて相応の顔付きを持った奴なんかに 酒場に
行って 一人身分証明書を提示させられる気持ちがわかるものか」

――恨めしげなその口調を、笑うなよ俺。笑っちゃご機嫌取りに非常
に苦しむ破目に陥るぞ、俺!耐えろ!!

ポーカーフェイスを装って
「…あー確かにそういう経験はないっスね…でもそれも昔の話なんで
しょう?」
と答えてみたけれど、俺の内心の忍耐は「…ムカつく」とぽつりと返さ
れた一言で決壊した。
「ブッ…まさか…最近の話…?」
「うるさい」
端的なお答えは、まさに肯定そのものだ。
確か15歳の頃には悪ガキぶってた俺は、酒や煙草に手を出していた
けれど、今になるまで見た目で咎められた記憶はない。

「あー…俺は大佐がそういう顔と性格で よかったと思ってますよ」
とりあえず、この会話を続けていけば俺自身も大佐の地雷を踏みかね
ない危険性が高いので、あえて話題をずらす。
「どういう意味でだ」
「だって大佐が…ヒューズ中佐みたいな顔と性格だったら尊敬はして
も キスしてみたいとか到底思えなかったでしょうし」

「……嫌な絵面を想像させるな」
額に指を与える大佐の想像したのは、多分俺と(見た目)ヒューズ中佐
のキスシーンだろう。
「咄嗟に大佐と同い年で思いついたのがあの人だったんだから 我慢
してください ヒューズ中佐の見掛けで中身が大佐でも大佐の外見で
中佐みたいな性格でも…やっぱ今の感情はなかったですし」

駄目だ脳ミソが想像を拒否する
…ヒューズ中佐の姿で、雨の日に無能と呼ばれ激しく落ち込む図。
…あれ?その行動って、少し普段のヒューズ中佐より若く見えそうな
気がするな。

ならば逆で、大佐の見掛けで中身がヒューズ中佐だったら…それなり
に威厳がありそうだ。
袖からダガーを瞬時引き出し、相手の首筋に刃を引き当てニッと微笑
むマスタング大佐…うん、普通に格好いい。

…やっぱり大佐の場合見掛けが若いだけじゃなくて、他にも問題点が
あるんじゃなかろうか。

「大佐が出会ったときから変わらずにいてくれて、俺は嬉しいっスよ
目指す人が…護りたいと思える目標が変わってしまったら…自分が何
をしていいか解らなくなりますもん 大佐がそのままでいてくれれば
俺はもっともっと頑張って少しでも大佐に近づこうって努力できますし
……ただでさえ中身が凄いんですから 外見まで凄くなろうとせんで
ください …俺が随いていけなくなっちまう」

なかば本心、なかば元気付けのつもりでこう言って大佐をぎゅっと
抱き締めたら、何故か胸元からくぐもった笑いが響く。
「…大佐…?」
「フ…そうだなハボック!私としたことが…その通りだ!!」

機嫌が直ってくれたのはいいとして…何が大佐のツボをついたのかが
理解不能の俺は、そのまま固まる。
「私のように頭脳明晰・容姿端麗・順風満帆出世街道まっしぐらの者に
一つの欠点もなければ 不公平というもの!」
「…そうきますか」
「うむっあまりに出来過ぎた人間は妬まれるものだ 若く見られると
いうのは場合によっては長所ですらある 私は今の状態で満足すべき
なのだろう」

…本当に出来た人間ってのは、そういう類の台詞を口にしないし尊敬
こそされても、妬まれないと思うんスけど。

そんな事も思いながらも、満足げに自分に言い聞かせるようコクコク
一人頷いてる大佐をどうしようもなく可愛いと思ってる俺は終わって
るなあと、笑いながら「そうっスね」と返事をした。

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まあロイの場合は中身も含めてあの見た目だよねということで

しかし友人4人と呑みに行って、友人二人が年齢確認身分証明書を求められるのに
スルーされる残り二人(自分含む)は涙目なんだがww