絵チャこちらの一番下の絵からの妄想話

暗い罠


 ああ、マズいな。
少し緊張した様子と、思いつめた表情、そしてわずかに紅潮した
頬から見取れる緊張は、重みでなく期待が混じっている。
同僚から頼まれて裏庭に回っていた俺は、彼女がそこにいたことで
ついでと言われた頼みごとは、ここへ誘導させるための手段だったと
悟った。

 白い頬に、上半分をまとめて残りは流した清楚な茶色の髪、胸だって
俺のでっかい手のひらで覆っても余りそうなでっかいオッパイで、
それでいて気取ったそぶりはなく、一生懸命告白の言葉を紡ぎだそうと
いう様子は、健気で少し前の俺だったら一も二もなく両手を広げて
ウェルカムだったけど…。
すまねぇ事に、今じゃどんな相手が来ても対象外だ。

 気取っていていばりやだし、思いもかけないところで間が抜けてる
し俺様だし、おっぱいもないし優しくもない。
恋愛をしかけてみても、コッチの気持ちに全然気づかない鈍さに
イライラさせられて、そのクセ誘ってるのかと勘違いするほど俺へは
無防備な、黒髪の上司のことしか考えられねえ。

慰めにはならないだろうけど、精一杯の誠意と愛想で相手をしていれ
ば、背後に感じたまっすぐな視線。
気取られぬように探ってみれば柱の影から覗くのは、見覚えのある
サラサラの黒髪。
ああ、俺を見てるんだ。
睨んでるのか、ただ見てるのか、たまたま通りがかって眺めている
だけなのか――今すぐ踵を返して問い詰めたい衝動が、俺を襲う。

 大佐に気取られぬようさりげなく…唐突に告白劇を終わらせた俺は
驚きで身を竦ませた大佐を、彼女の目に届かぬ柱陰奥へ引き強い力で
腰を抱いた。
「…っ!」
「なんか用っスか」
「…っ…ハ…ボ…」
「覗き見っスか?アンタにそんな趣味があったとはね」
「ちっ…ちがっ…」
「違わないっスよ アンタがやっていたのは紛うことないノゾキで
しょ 俺のプライベート覗き見して楽しんでたの?趣味悪いっスね」
 
雄めいた響きを意識しながら、大佐の背骨をあやすように指を這わせ
れば腕の中の躰はピクリと震えた。
ホントは解ってるんだけどね。大佐はたまたま通りがかって部下が
何かをやっているから、ちょっと探ってやろう程度にしか思ってなか
ったってこと。
だけど些細な罪悪感をくすぐってやれば、下世話な感情をあまり理解
していないアンタは、自分が行っていた行動が弁解に値するものだと
の錯覚に捕われる。

 呆然としてる大佐の頬に、血の気が昇った。紅潮した顔のまま腕を
突っぱねて、俺との距離を取ろうとしたのを力尽くで封じ込め、俺と
大佐の体を密着させる。
「なっ…離せ!バカ犬!!」
敵わないのが解ってて、手を振り解こうと左右に捩り無駄だと悟ると
睨みつける。
頭のイイ人なのに、こういう子供じみた反応がかわいくて堪らない。

「…黙っててあげますから 口止め料下さい」
「な…何を言ってるんだお前っ!」
「うるさいっスよ 直接ふさいだほうが早そうですね」
それ以上の言葉を紡がれるより先に、手首を離して後頭部を引き寄せ
大佐に口付ける。
 女と代わらねぇ柔らかで湿った感触。
「んっ…」
歯列を割って潜り込ませた舌を逃げようとするそれに絡ませ、口蓋の
裏を舐めくすぐるように唇を動かすと、大佐の喉奥から甘い吐息が
洩れた。
弱くなった抵抗に乗じて、更に腰を抱き寄せると我に返った大佐が懸命
な力で離れようともがくが、それを上回る力で封じて目を細めて笑う。
ああ、悔しいんだアンタ勝気だもんな。年下の部下なんかに意にそまぬ
行為を強いられいいようにされて、いまだ身動きできないなんて屈辱で
たまらないんだろう。睨みつける黒い双眸が、うっすら悔し涙でにじむ
様子が俺をゾクリと煽る。

「たった…今…私の目の前で女性と…イチャついておきながら……
何を考えているんだ…」
「イチャついてるように見えたんスね それって醜い嫉妬ってやつ?
俺は正統派のお付き合いの申し出を聞いてただけっス」
指でこれみよがしに大佐の涙を拭ってやれば、顔を振って払われた。
「どっ…どちらにしろそんな行為の後 私になぜこんな…」
「お断りしましたから」
「……え……」
「俺は何度か言ったはずですけどね アンタを好きだって」
「あ…いや、でもあれは暇つぶしの戯言……」
「アンタにとってはそうでも 俺にとっては違ったんです…ああ証明
してほしければこうすりゃ伝わりますかね」

 もがいたことで乱れた襟元から覗く首筋だとか、涙で数筋張り付いた
黒髪のおかげで、俺の雄は充分に昂ぶりはじめていた。
密着した腰で、大佐が俺の中心の変化を気づかないはずがない。
「…っ わ、私への嫌がらせでそこまで…」

どこまで鈍いフリしてんだよ。野郎相手に嫌がらせで勃たせるなんて
そんなバカな行動するぐらいなら、殴る方がよほど普通だろ。
――もうこれ以上意味ある台詞なんて叫ばせてやらないよ。
 逃がそうと思ってたのに、飛び込んできたのはアンタなんだから。
大佐の唇を再度塞いだ俺は、この場から一番近い人目に触れぬ場所を
脳裏で探索し、訓練所トイレへ連れ込む手段を模索するのだった。