難しい甘やかし/オマケ

 何となく隙間が空いていると、寒さが増す気がするので膝を寄せ
シャツ裾を引っ張りハボックを見上げると、なぜかハボックは感涙
とばかりに手首の辺りを目元に当てていた。

「いいっス! まさか大佐の上目遣いミニスカ姿を拝めますとは!」
「ちょっと待てこれは『面倒くさがりの男が家の中で他人に会う予定
もないのをいい事にズボラな格好をしている』だけで断じてミニスカ
ート姿なのではないぞっ」

…普段長袖長裾を好む私のスタイルが、この暑さの中では目の暴力
だと訴えてくるハボックが、この姿ならマシだと感動しているのかと
思っていたが…
どうもそれにしては、ハボックの視線が輝いているワケだ。

 ハボックの主張を聞いて我に返り、拳を握って抗議をしてみれば、
ハボックはやれやれとばかりに首を振った。
「どうりで大佐がそのまま過ごして欲しいって 俺のワガママあっさり
聞いてくれると思いましたよ 普段なら絶対拒否されるレベルでした
のに…まあどんな理由でも 俺に取っちゃ目の保養だから全然OK
ですけど…」

「…ハボック その…やっぱり下を穿きたいのだが…」
室内の空調はきちんとしているし、体調が悪いわけではないのだが
シャツ一枚という姿はどうも、足元がすーすーして頼りなく、体感的
ではなく気持ち的に…寒い。
まくし立てるように注意してくるハボックの台詞の合間に、主張を割り
こませてみたが、この男は軽く聞き流した。

「言っておきますけれどそんな認識でいて うっかり来客があったから
そのまま出ちゃったよ…なんて真似だけはせんで下さいよ
エロかわいくて 普通の人ですら犯罪者になってしまいますから」

――えーっと…私は今何を言われた? 
あらためてハボックの言葉を、脳裏で再構築してみると…つまり
コイツの視点で見る私は『彼氏の為に Tシャツ一枚の無防備な
姿でお部屋をうろついちゃうの ちょっと剥き出しの脚とかサイズが
違うからズレて覗いちゃう鎖骨の辺りとかちらつかせちゃうイケナイ
魅惑的な ワ・タ・シ』…になっているのか!?

 そう意識した瞬間、途端に腹部辺りから発した熱が上へと一気に
駆け昇り同時に下へと落ち、羞恥でいたたまれぬ感覚に全身が
支配された。…今私の顔は、真っ赤になっているだろう。
「うっわ…バカ!へ、へんな事を言うな!!ジロジロ見るんじゃない
…こっち向くな!!」
途端に恥ずかしくなって、前裾の辺りをできるだけ下まで引っ張って
しゃがめば、ハボックは小さく吹き出した。

「大佐俺は今もさっきも目線の意味 変えてませんよ」
「わわ、解っている!…私の気分の問題だ!!もうヤだズボン穿く
だからお前は私が部屋を出るまであっち向いてろっ」
 やつあたりの自覚はあるが、蒼い瞳の見下ろしてくる視線が恥ずか
しくて仕方がないのでそう叫べば、苦笑を浮かべたハボックはその
まま近づいてきて私の手首を引き立ち上がらせた。

 腰をぐいと強い力で抱き寄せたハボックは耳元に唇を寄せ囁く。
「ダメ」
その低く甘い声に、背筋がぞくりときて思わず目の前のハボックの
シャツを掴んだら、耳朶近くにあるままの喉奥からクッとくぐもった
笑いが洩れた。
「…俺の声に腰砕けになってくれんの? 可愛いね、大佐」
「なっ…ちっ違っ…お前が耳元で喋るからくすぐったくて、それで…」
「立ってられないほど感じちゃいました?」
「ば……ばば、バカを抜かすんじゃないっ!!」

 スルと伸びてきた大きな掌が、内腿の薄い皮膚の辺りを撫でた。
「ひゃっ…」
自分と違う体温が、普段あまり他人に触れられることなどない箇所に
重なって思わずマヌケな声を漏らせば、その声に反応したかのように
掌が腿の線に添って動き始めた。
「…かわいいっスよ 大佐」

 どうやらズボンを穿く前に、上着まで剥ぎ取られてしまいそうだ。
諦めて瞑った両目の上に温かい感触が落ちてきて、目蓋の上から
ハボックに口付けされたのだと解った。
 こんな時にハボックが浮かべる、男くさい笑みはカッコイイがそれに
見惚れる自分というのも癪に障るので、目を瞑ったまま腕を伸ばして
ハボックをぎゅっと抱き返したら、耳元でまた甘い声が
「ホント…全部貪りつくしちゃいたいほど…カワイイ」
と囁いて、私の理性を溶かしていく。

「…っん…あ…ハボ…」
 今日のところは、負けてやるがこれは断じてミニスカ姿などでは
ないぞと、明日には言い負かしてやる。だがその論法を考えようにも
ハボックの長い指や、熱い舌があちこちに触れて、舐めて、私の体温
を上げ…何も考えさせられなくなってしまった。