花粉症


 くしっと、国軍大佐といういかめしい肩書きには不似合いな可愛ら
しいくしゃみをしたロイは、机上のティッシュを摘んでちーんと洟を
かんだ。
 かみ終わった後もむず痒いのか、鼻頭を指節で掻いて涙目となって
いる目元を擦っている。

「たーいさ あんまこすると目がウサウサうさ子ちゃんになっちゃい
ますよ 目薬注してあげますから上向いて…って目ェ瞑んないで下さ
いよ 目薬注すのに何で眉寄せて目を閉じるんスかほら開けて」
「…人に目薬を差してもらうのはなんだか…こわ……くしっ」
しゃべりながら、またくしゃみをしたロイが瞬きした隙を狙って見事
な手際で目薬を完了させてハボックは、小瓶をしまいながらロイへと
笑いかける。

「…そんなんじゃ隠密行動とか絶対できないっスね」
「うるさい 私のような都会人がかかる現代病なのだ お前には縁が
ないだろうからと言って威張るな」
「威張ってません…っていうかむしろ威張ってるのはそっちっスよ…
まあ目ェ潤ませてる大佐の図ってのは 貴重なんで楽しんでは
いますけど」
「それに私は隠密行動よりは陽動作戦向きなのだ どこへ行っても
目立ってしまうからな 多少のくしゃみぐらい何ともない」
「…まあその通りっスね」
 肯定しているハボックの声が、どこか上滑りなのに気付いたロイが
睨むと、ハボックの目線は僅かに逸らされた。

「…なんだ 何故笑いを堪える表情になっているハボック」
「いや なんでもないっスよ」
「言いたまえ」
「えーっと怒んないで下さいよ? 大佐が俺の隠密行動の時に使う
黒尽くめ衣装とマスク…纏ったら…微妙だろうなあ…って」
「……」
 日頃であれば、何らかの反論を行うロイが無言でいるのは、自分で
もその衣装が似合わぬだろう自覚があるからだ。

「…私は隠密系の行動などせぬから、似合わなくても構わんのだ」
「そうっスね アンタの手飼いの犬が似合えばいいでしょ?」
 肩をすくめて余裕の表情で笑うハボックは、ロイがジャクリーンの
衣装でいる時の姿を、気に入っていると承知の顔だ。

「…黒尽くめの自分を格好イイと自惚れるなよ」
 実際、普段茫洋とした表情で隠している鋭い気性をあらわにしたハ
ボックの精悍なあの姿は、同性であれ見惚れるものではあるとロイも
認めてはのだが…
それを口に出してやるものかとばかり、睨みつける。

「自惚れてませんよ 大佐が好きでいてくれるなら嬉しいなって思う
だけで」
「うっ……」
 
 年下の部下に、いなされるよう流されたロイは何かを言い返して
やろうと図るのだが、それより先に小さなくしゃみが連発してまた
目が痒くなる。
思考のまとまらぬロイは、せめてもの意趣返しに快活に笑って自分
を見下ろしているハボックへ
「花粉症の横で煙草を吸われるとますます喉が痛くなるではないか
ここで吸うな 禁煙しろ」と盛大なヤツあたりをするのだった。


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ハボロイでロイが花粉症になったとしたら(ちょっと前のブログで書いて妄想)