ヒゲと猫


 一度 戦線離脱したハボックが、脚の運動機能復活と共に
軍部に…ロイの元にと帰ったのは、数ヶ月前。
人間としても男としても数回り成長したハボックに、当初気圧
されると同時に、惚れ直していたロイはハボックが傍に居る
幸せを噛み締め、大人しい上官を演じていたのだが…生来の
性格というのは、そうは変わらないらしい。

「…前もありましたよね」
 数段に男ぶりを増したと評されている、顎ヒゲを指でいじり
ながらハボックは記憶を辿るように、目の前のホークアイに
尋ねた。
「ええ でも今回はやっかいよ言葉まで通じなくなってるわ」
「…尻尾と耳だけじゃないってことスか」
「ええ 中身まで猫化されてるわ」
「…今はどうしてるんスか?」
「逃亡して全員で探索中 という訳だから少尉もお願いね」

 扉の方を掌で指し示してGO!の合図をホークアイが示す
と同時に、駆け足音が響きマスタング大佐司令室の扉が大き
く開かれた。
「中尉! 大佐を見つけたのですが警戒されまくって俺らじゃ
手に負えませんっ」
 顔にうっすらと、ひっかかれ傷をつけたブレダが言えば後ろ
に立ったフュリーが半べその顔で
「大佐かわいいのに 戦闘能力凄いです近寄れません〜」
と続ける。

 小人閑居にして…という諺は存在するが、小人と称するには器
の大きすぎるロイ・マスタングもやはり暇になると、とんでもない
事態を招く行為を成すのは珍しいことでなく、今回も何やらノック
をしても返事がないと、ホークアイが個人執務室を開けると同時に
黒の猫耳・猫尻尾のロイが飛び出してきて、廊下へと走り去った
のだという。
 机の上には、フラスコに入った妖しい煙を出す紫の液体。
よくそんなものを口に出来るなと眺める者みなが思うそれを、他人
に飲ませようとしないだけロイは上司としてマシなのかもしれない
が…それでもまともに働く上司を望むというのは、部下として当然
の事で現在はとりあえずの捕獲大作戦という事らしい。

「あー…普段錬金術使って戦ってるイメージしかねぇけど大佐
格闘もなかなかやるもんなァ…了解 なんとか俺がとっ掴まえて
来てみますよ」
「頼んだわね 姿まで戻してとは言わないけれど あの姿で
うろつかれては流石に色々あるでしょうから」
 後頭部を掻くハボックは、苦笑しながら咥えていた煙草を灰皿で
揉消し、ロイの椅子背に掛けられていた白いふわもこマフラーを
手に、フュリー達がロイを発見したという場所へ向かった。

「大佐ーっ おーいマスタング大佐 やーい」
 ガサリと揺れた葉音の後ろから、尻尾をピーンと立てて四つ足
臨戦態勢のロイが、姿を見せた。
錬金術師の好奇心という名目で、かつてもネコミミと尻尾姿に
なったロイというのは拝見済みだが、この他人…むしろ自分の
縄張りに侵入してきた敵を睨む目付きの、猫化ロイというのは
ハボックにとって初めてで新鮮だった。

「ふぅん… 四つん這いだと背中から腰のラインが丸解りで
セクシーっスね」
 余裕に笑うハボックは、そんなロイも一生懸命毛先を立てて
威嚇する仔猫にしか見えないようで、楽しげだ。

 ひらひらとマフラーを手先で舞わせるハボックの手先に、ロイの
視線は自然吸い寄せられ本能が刺激されるのか跳びかかりたくて
うずうずとしている様子を見せる。
「ほら どうぞ」
「ニャッ!」
 ロイの目前にひらひらを落としかけたと見せて、すいと後方へ
マフラーを移動させたハボックの動きに、ロイは咄嗟に追い掛け
ようとジャンプした瞬間、ハボックにがっしりと腰を抱かれ捕獲
された。

「フーーーッ!!」
「よーっし ゴロゴロ…」
 長い尻尾を膨らませ、逃れようともがくロイの喉元を長い指が
やわやわと往復し宥めるべく擽る。
「くぅーーーーウーーーッ…クゥッ……」
心地好い感触に、ゆっくり警戒は解かれていくがまだ唸りを
やめないロイだが、それでも徐々に甘える時に聞かせる喉鳴
が声に混じり始め、大人しくなっていく。

「さてと…次は……」
 抵抗をなくしたロイの体を前に廻して、気に寄り掛かりながら腰
を落としたハボックは、喉を撫でていた掌をゆっくり首筋へと移し、
耳下から顎元にかけての薄い皮膚を擽った。
「…にゃ…」
 ぴくんと体を震わせたロイを逃がさぬように、がっしりと空い
ている片腕で腰を抱えているハボックは、そのまま白いうなじ
に顔を埋め、舌先でペロリと舐めた。
「にゃっ! にゃ……」
「よしよし大丈夫 いつもやってるコトでしょ?…言葉通じない
なら 大佐の気持ち居場所責めてアンタが猫じゃないこと
思い出させて上げますよ」

 にっこり不穏な台詞を囁くハボックの言葉の意味の解らぬ
マスニャングなロイは、それでも動物の本能としてもぞりと体
を動かして、逃亡を試みるが力強く自分を戒めた腕は、まるで
ゆるがずいる。

「…うにゃぅ……」
 首筋を辿るハボックの唇の動きと、同時に感じるヒゲのむず
痒さに似た感触にロイの強張りが溶け、甘い声が洩れ始めた。
「…フッ…可愛いっスよ ロイ」
 もう一度喉元を擽ってきたハボックに、にゃぁと小さく啼いた
ロイの不安な眼差しを見詰めるハボックは、男くさい微笑の
まま
「ほらアンタが覚えてなくても俺が覚えてますよ ココ…もアンタ
弱いよね」と耳朶を甘く齧った。


 自分を取り戻したロイが、気付いた時になぜか木陰で半裸に
剥かれていてしかも自分にはネコミミ尻尾という状況。
 抗議を紡ごうにも、体は快楽に支配されぐにゃぐにゃでハボック
に縋るしかないという訳のわからぬ具合で、喉からは甘い濡れ声
しか出ず…結局一通り貪られるまで、ハボックのなすがままにされ
てしまうのだった。

「…あれ 大佐元に戻ってます?」
「………私が何をやらかしたのかは この耳と尻尾でおおよそ予測
つくが… お前は途中で私が戻っていると 本当に気付かなかった
のか…?」
「さあ 想像にお任せしますよ サー」
 にやりと浮かんだハボックの性質の悪い笑みに、可愛かった
わんこは訓練された過去を持つ野犬になってしまったとロイは
思わず愚痴り、ハボックに吹き出されてしまった。

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絵チャで 古賀様と合作させてもらった髭ハボとにゃんぐに萌え
…とりあえず他の方にも この組み合わせヒゲはボなら調教ありですよねの言葉に
たまらず挑戦してみました