オマケのオマケ


精悍な顔で、額をだして、ヘアピン3つの寝たふりハボを見たいとの
コメントを頂いたので挑戦……すみません精悍は私の絵では無理でした(笑)
…っていうか精悍でもなく額も出してなくヘアピン二つしか見えず寝たふりもしてないですよこれ…



今週のシフトをハボック少尉と重なるようにしてくれと、スケジュールの調整
に来たホークアイに、ロイは告げた。
続く言葉は、そうしてくれたら今週は仕事を真面目に行う・逃亡はしないと
いう、社会人にあるまじきツッコミ所が満載なものだったが、ならばそうしま
しょうと有能な副官はあっさりと同意を示した。

「ハボックと同じ時間に働くようにしてどうするんで?」
「仕返しだ」
会話を聞いていたらしいブレダの疑問に、ロイは簡潔に答えた。
「……巻き込まれたくないから、前もって聞きますが何をやるつもりで」
ハボックを案じてというおためごかしをせぬ辺り、いっそ清清しい。
「フフフ…これだ!」
ロイが差し出したのは、赤い首輪。
語られずとも、今までの猫耳やらの反撃だろうと察したブレダは顔の前で
手のひらを振る。
「寝てるところを叩き起こそうってハラでしょうけど…それ付けて一緒に闊歩
してりゃ 大佐の方が知名度分ダメージでかいですよ しかもあいつだったら
あえて外しもせず、笑いながら『大佐にやられた』って喋りまくるだろうし」
その様子を想像したロイは、力なく首輪を見つめた。

「…大変参考になる意見に感謝する ではこちらはどうだろう」
次にロイが取り出したのは、ヘアピン。
ただそれらは黒い金属のままの、無機質な物とは異なり派手な太幅のチェ
ック模様だったり、髪留め部分に大柄な造花がつけられている、かわいい
アイテムだった。
「いいんじゃないですかね」

だが残念なことに既にハボックは訓練の際など、前髪が邪魔だと女友達から
借りたピンやバレッタで無造作に留めていてた記憶がブレダにはあった。
あの様子では、ロイが悪戯をしでかしてもダメージにはならないだろうと
思うのだが、それで気が済むならあえて言わずにおこうと、懸命な部下は
口を噤んでおいた。


「あれ?少尉はどちらに」
書類を片手にハボックを捜すフュリーに、ファルマンが訓練指導の後
休憩に入ったと返した。
隅の仮眠室にハボックが居ると聞いたロイは、顔を輝かせ席を立つ。
「よしっ 私も今から休憩にはいる!」
職務上の行為だったとはいえ、ハボックによって自分が受けた衝撃の分は、
やり返してやる。
その意気込みで、熱心に仕事を片付けていた上司の行動はお咎めなしだ。

司令官権限として与えられている、マスターキー。
権限逸脱だと私利での利用だと責められればその通りだが、上司に口紅を
塗ってくるような奴がそれを指摘せんだろうと、ロイは音をさせぬよう
ゆっくり扉を開けた。

遮光カーテンで薄暗い室内は、簡素な寝台があるだけだ。
緊急時対策として二段になっている、寝台の上部分に誰もいないのを確認
して、ロイは後ろ手で鍵を閉める。

足音をさせぬようベッドに近づき、見下ろすハボックは日頃浮かべてる
一癖ありそうな笑みが無いからか、存外に無邪気に見えた。
「まったく…普段からこういう顔を見せて入れば可愛げがあるものを」
ピンで留めてやろうと、奔放に撥ねる前髪を指で梳いてもハボックは目を
覚まさなかった。
三箇所ほどを留め、額を出させたハボックは、ロイの予想に反し却って
男前度が上がっているように見える。
精悍な輪郭が露わになり、女性ものである髪飾りも洒落者の酔狂のようで
悪くない。
「……面白くないな」

こんなことなら、先ほどの首輪を持って来れば良かったと思っても、それは
既にホークアイ中尉に見つかり、没収されていた。

顔に落書きしようにも、今手元にあるのは万年筆でうっかり刺さって刺青に
でもしてしまったら、冗談ごとではすまない。
ならばせめて、その眠りを邪魔しようとロイはハボックの頬を抓った。
あまり摘む肉がないのも、癪に障る。自分の輪郭に多少のコンプレックスが
ないことも無いロイは、両頬を指先で挟み引っ張った。
――どこまでも、大人げが無い。


「番犬の癖に、これで目を覚まさないとはどういうつもりだ」
「起きてますって とっくに」
「うっ…わ!?」
寝台の上に乗り出していたロイの体は、力強い腕で背中を抱え込まれ大きく
バランスを崩した。
倒れこんだのは、ハボックの上で自然と抱きつく形になる。
あわてて離れようとシーツに肘をついても、ハボックの拘束力は強く身を
起こすのは不可能だった。

「まったく…何をするのかと思って様子探ってたら…アンタさっきから
何がしたいんスか」
呆れたような口調だが、ハボックの表情はどこか楽しげだ。
「…どこから起きていた」
「大佐が鍵あけてそーっと侵入してきたところから」
「最初からではないかっ お前根性悪いぞ!」
「マスターキーを不正に利用して、忍び込んでくる不法侵入者に言われ
たくありません …中尉に言っちゃおうかな 大佐が鍵をヤバい使い方して
ますよって」
「待てっ! こ、今回だけだ!!今までだって今後だってしないっ!」
「じゃあ 俺への思いだけでこんな事しでかしたんスか?」
……若干語弊があるが、そうと説明できないことも無い。
不承不承ロイが頷くと、ハボックの笑みはいっそう深くなった。

「黙っててあげますので…口止め料下さい あの時確か場所だけが問題…
だったんスよね?」
何を請求されるのだろうかと身構えるより早く、鍛えられた長い指と掌が
ロイの後頭部を包み、ハボックの顔へと引き寄せられる。
事態を察したロイが避けようとしても遅く、軽い触れるだけの口接けは
遂行されていた。

「…で、今度は何を理由に怒りますか?」
真っ赤になって立ち上がったロイを、肘枕で見上げるハボックはニヤリと
ふてぶてしい笑みを浮かべる。
「なっ…何を…だとっ 何もかもだっ!このシツケの悪い馬鹿犬!」
「犬の躾は飼い主の責任 …これから頑張ってくださいね、大佐」
他人事のように言ってひらひらと手を振ってお見送りをするハボックを
後ろに、ロイは憤慨したまま部屋外へと出て行った。

「あー…面白いけど……ヤバいよなあ…」
確認のために、もう一度と重ねたロイとの唇。
やっぱりそれが嫌じゃなくて、むしろ深く味わいたいと思ってしまった。
困惑とこれからどうしようの懸念にとらわれたハボックは、とりあえず今は
考えるのをやめたと、もう一度布団へともぐりこみ目を瞑った。