無意識ペナルティー


キスしていいかと尋ねられたから、しばらくの間をおいて構わんと答えて5分。
明日の飲み会全部おごれだとか、まわってきた書類4日分処理しろだとか
言われるよりはマシだと、今日の賭に負けたペナルティを受けたら、ハボック
は固まったまま動かない。

「ホントにいいんスかっ!?」
唇に唇をくっつけるぐらいの皮膚接触がなんだというんだ。
(幾らコイツが私に好意を持っていても、はじめからべろチューはしてきまい)
もとより、そんな提案が嫌だったら手袋一つで無理矢理ペナルティ内容を
変えるぐらいの力は私にはあるのだから。

囲い込むように私を壁に追い詰め、顔の両脇に掌をおしつけたまま…さて
もう何分たったことやら。
そろそろ大人しくしているのも飽きたので、ハボックの様子をそっと窺えば
「うおっ…反則っスよ……上目遣い破壊力 パネェ……」
と意味不明の言語を呟き、ずるずるとへたりこんでいく。

「…お前は普段から私を見下ろしているだろうが 何を今更興奮しとるんだ」
さすがにここでアクビは、ハボックのなけなしのプライドを傷つけるだろうと
爪先ではよ動けと軽くハボックの腰をつついたら、なぜかハボックはますます
へたりこんだ。

「ちょっ……アンタ……それ無意識なら性悪すぎ……」

――無意識? 単にとっとと行動に移れ馬鹿者の意思表示だったのだが
幾ら部下とはいえ足での表現は、性悪だということだろうか?
意味が解らんとばかりに、ハボックを見返すと今度はこれみよがしに
大きな溜息をつかれた。

「い…いくっスよ」
「ああ」
「本当の本当に…キスしますからねっ!」
顔を紅く耳元近くで叫ぶな、バカもの。

ああ、もう まだるこしい
ハボックの黒いTシャツの襟元をひっぱり、こちらから頭をぶつける勢いで
唇を重ねてやる。

「……!」
「ふっ キスのマナーがなってないなハボック あまり相手を待たせるものじゃ
ないぞ」
これ見よがしに、自分の唇を舌でたどり濡れた唇を見せ付けると、ハボックは
完全に撃沈した様子で床へとうつむき倒れた。

「うっ…うばわれたぁぁぁぁ!」

浪漫もムードも雰囲気も、なにもかもがない初キスだったが…これはこれで
私たちにはふさわしいのかもしれない。
そう思ってふきだす私を、半涙目なハボックが睨んだのは気付かないことに
しておこう。

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どうしていいか解らないハボックに焦れるロイ(笑)