オマケ


食費を出してやるから、調理はお前がしろという理由で、ハボックが
夕食時にわが部屋に寄っていくようになって数ヶ月。

あの時のキスは酔った勢いという事になっているのか、ハボックはその
後、普段どおりに態度変わらず、今も鼻歌なんぞを漏らしながら器用に
ジャガイモの皮を向いている。

なんとなく暇だったのでそっと近寄り、ハボックの腰にまいてある
ギャルソンエプロンの紐をほどいてみた。
何重にかなっているので、即座にはほどけないがさすがに緩み、ハボック
も悪戯に気付いたらしい。
「…何をしてるんスか」
「うむ 紐をほどいてみた」
「……そうじゃなくて、何でそんなことしてるのかって」
「なんとなくだ」
「今 俺両手がふさがってて結べないので結びなおしてくださいよ
メシが遅れてもいいってんなら、いいっスけど」

それは、困る。
ならばきちんと結びなおし、そう簡単に崩れぬよう、乱雑に巻いた紐を
腰にそってきちんと整えてやろう。
ハボックの背後にしゃがみ、腰とむすび紐の間に指を入れせ背中から手を
前に動かすと、自然抱きついたような形になった。

「………だ、から……何をして……」
「美しくエプロン紐を結びなおす過程の途中だ …しかしお前の体温は
気持ちいいな 暖かい」

特に考えはなく、ハボックの腰骨の上辺りに軽く顎を乗せその体温を確認
していた直後。

ダンッ!ゴスッ!バッ!!
すさまじい擬音が連続で響いて、気付けばハボックはキッチンの外に
肩で息をしながら、涙目でこちらをにらんでいる。
状況を眼に見える景色から想像するに、「ダンッ」の部分でハボックは
手にしていたじゃがいもをまな板に叩きつけ、「ゴスッ」の部分で反対の
手に持っていた包丁をじゃがいもに突き刺し、「バッ」の部分で瞬時に
私をふりほどいて、あそこまで移動したのだろう。

おおっ完璧なる推理。
――が、なぜハボックがこちらを睨むのかが解明できていない。

「あんた……ほんっとーーーーーに天然なんスか!?それとも誘って
るんスかーーーーーー!!」

叫びそのまま、玄関から外へと出て行ってしまったハボック。
キス以来、その話題に触れないので、なかったことにしようとしている
のかと思っていたのだが…そうではなかったのだろうか。

…まあいいか、あのヘタレが何もできぬとも、どうも私が普段通りに生活
していると誘っている事になるらしいのだから。

ハボックの残していった、ボールに入ったままのマカロニサラダはいつも
通り美味しかった。