バレンタインといえば、チョコレート。 そしてバレンタインの男性といえば、そのチョコレートを貰う側。 それが世の法則であり、定理である…筈だ。 だがその定理が揺らぎそうになるのは、現在の恋人である金髪長身の部下 の、無言のプレッシャーならぬ期待だ。 本人も好意のプレゼントというものを、くれとは言わないだけの分別が あるらしいが、それを隠しきれていない。 隠しきれていないというより、隠すという事を考えていないのだろう。 ブレダたちが「今年も大佐いっぱいもらうんでしょう」みたいなからかい をしてくれば、ものすごい元気な笑顔で「いいっスよね!愛の篭った チョコって!!」 …握りこぶしで、力説するな。ほら見ろ、フュリーはお前が『誰か』から チョコレートをもらえる可能性が高くて、それを楽しみにしているのかと 素直に祝福してきているじゃないか。 こちらを盗み見ながら、「あ、いや俺は…その貰えるか…わかんないん だけどさ」の台詞は、気づかない振りをしてやろう。 街の視察に行けば、よく通りがかる菓子の店前で、不自然にそわそわと こちらを見るな。私にこの女性あふれる店に入って、この状況でチョコ を買って来いと期待するのは、重すぎる。 「ハボック…お前は甘いもの、嫌いだったよな」 「え!?きき、嫌いじゃないっスよ!?」 声が上擦ってるぞ。その嬉しそうな顔はやめろ。 …無理だ、この状況にふらり一人店に入ってラッピングされたチョコレー トを買うなんて、ハードルが高すぎる。 ……金をやるから、自分で買って来いというのは私的には良い案だと思う のだが、我ながらそれは酷すぎるだろうとも思う。 「チョコレートでなくとも、貰えれば嬉しいっス!バレンタイン当日限定 って感じだと特に」 ああ、お前はさすがにいい部下だ。こちらの葛藤を、察しているのか。 ならば…そうだな、貰っても迷惑にならない値段で珍しいものにしよう。 やはり、基本は食べ物だろう。チョコレートのかわりに、バレンタインの プレゼントらしい、可愛い色な何か。 2/14 当日。 何やらプレゼントを買ったらしいロイと、それを貰ったらしいハボック。 さぞかしこの親友は浮かれてるだろうとのブレダの判断に反し、ハボック の顔色はさえなかった。 「……ブレちゃん…バレンタインにタラコをくれるってどういう心境だと 思う?」 「……タラコってあのタラコか?」 「そうセントラルとか俺の故郷の方だと、海が遠いから焼いたり加工しな いと食べられないんだが、これは高級品で生でも食べられる優れものだ って……くれたんだけど…」 海から遠いセントラルでは、確かに新鮮な海産物は、高価過ぎない 高級品だ。 箱詰めできて、可愛い色(薄桃色)で、当日で食べてこそ美味しいもの。 以上の条件でタラコにたどり着いたロイの思考は、マスタング班の頭脳 とも呼ばれているブレダにも、解明ができず少尉二名をひたすら悩ませる のだった。 オマケ ちなみにその日の夕食の、生タラコをまぶしたパスタはロイに絶賛され、 ハボックのホワイトデーのお返しはロイがまたタラコを買ってくるので、 同じメニューを作るという物に、いつのまにか決定されていた。 「あの…何でタラコだったんスか…?」 「薄桃色で可愛いだろう?」 「…………美味しいっスね」 「そうか それは良かったまあ作ったのは お前だがな」 |