本日のラジオ天気予報は曇り
しかし降水確率50パーセントで『傘はお持ちになった方が良いでしょう』

「…確率が50パーセントで傘もってけって予報するなら 雨にしておけば
いいのに…なんで曇りなんでしょうね」
朝食の準備をしているハボックが、天気予報にだけは耳をきちんと澄まし
ているのは…私が雨の日を得意としていないからだろう。

「1時間に一定量降らなければそれは曇りと見なすという定義があるから
だろう」
ニュースペーパーの天気予報は、『本日 雨』になっていてどちらにしろ
予備の手袋を二枚ほど持っていったほうがよさそうだと、新聞を畳む。
「へえ…わずかな量だと雨って認められないんスか 知らなかった…
そういや 俺の友人で面白い予報の聞き方してる奴がいましたよ」

焼きたてのベーコンがまだ音を立てている皿を、私の前に置いたハボック
が新聞をさりげなく受け取り、脇へと置いた。
本や新聞を見ながらの食事は禁止……ただし、書類は場合によって許可の
取り決めは自宅でも有効だ。
「面白い…?必ずラジオ前に正座して聞くとかボリュームを最大限にする
とか…」
「あ、いや聞き方が面白いんじゃなくて解釈が面白かったんスよ雨のとき
降水確率って出ますよね」
自分の前にも食事を用意したハボックが、椅子へと座りいただきますと
手を合わせる。

手で千切った見た目がワイルドな野菜は、水切りしてあってしゃっきりと
歯ごたえ良く、焼いたベーコンの脂をドレッシング代わりにしていて風味
も良い。
…ありあわせだという材料で、同じものを作っても私には同じものを作れ
る自信はまったくない。

「あれで…降水確率が今日みたいに50パーセントだったらその予報地域で
の半分が雨降って残り半分は晴れてるって思ってたとか」
「…降水確率が80パーセントだったら八割の地区で雨が降って残りは晴れ
…ということか?…斬新な解釈だな」
「そうそう でこっちもまだガキの頃だったから相手に力説されると
そうかなーそうかも…なんて同調しちゃって…先生に尋ねたときは『その
発想は悪くないと思うぞ』って笑顔で言われましたっけ」
「いい教師だな」
「ええ俺は好きでした ただ…天気予報を聞くたびにカラッと晴れた地区
VS雨の地図を脳内で再生しちゃうのが困りもんなんスけど」
「…境目の地点の天気を見てみたいものだな」

メインの食事を食べ終え、デザートにリンゴはと聞かれたが、満腹だと
断るとハボックは「俺はちょっと 足りないんで失礼」と紅く熟した実を
取り出しだ。
ハボックの口元でシャクリと音を立てたリンゴは、丸ごとのまま。
甘酸っぱい匂いと、シャリシャリという美味しそうな音に、食欲をそそら
れる。…普段なら、そのままのリンゴなんて指がベタベタになるし、食べ
にくいとしか感じないのに。
「一口、食べます?」
差し出されたリンゴの齧り口脇を噛み分けると、口の中にほどよい酸味と
甘みが広がった。
「……お前といると、思いがけないものの見方や感情が出てきて……」
「出てきて?」
「面白くて ……自分の狭さを知って困る」
「…困るとかそんなかわいい笑顔で言われちゃ…俺の方が困りますよ」
「…その可愛いというのも間違えてるぞ 斬新な見方は悪くないが、私に
つかう形容詞ではない」
「いやいやいや 皆遠慮して口に出さないだけでかわいいっス」
「可愛くない」

くだらない押し問答のおかげで、雨の確率が高い天気予報の憂鬱は払われ
たが…気づけば時計の針は、いつも家を出る時間を15分過ぎていた。
「…中尉にしかられたらお前がフォローしろ」
「いやっス」
「…可愛い私が頼んでるんだぞ!」
「お、認めますか?今後もそれを公に口にしていいなら引き受けますが」
「うっ……」
結局、二人揃って絞られたならまだしも、無言の目礼だけを受けての挨拶
に背筋を凍らせたのは言うまでもない。



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天気予報で 確率30%だと30%の部分だけ雨が降ると思い込んでいた
のは大学時代の友人でした(笑)