想定外想定内


「好きなんです」
の言葉への返答は「よしわかった では付き合おう」だった。

自分から告白をしておいて、そのまま固まってしまったハボックは、咥えていた煙草が唇から落ち床へと
転がったことで瞬時我に返ったが、慌てて煙草を摘んだままやはり停止状態だ。
脳内処理が追いつかないらしいハボックの頬を、歩み寄ったロイが思い切り摘み上げる。

「なんだねその呆けた顔は」
「え…いや…だって……いてっいててて」
徐々にロイの指先の力が強められ、ようやく現実感を取り戻しつつあるハボックは、痛さに眉をひそめながら、
唇を緩ませた奇妙な表情だ。
「夢…じゃ ないっスよね」
現実であるのを確かめるよう、ハボックの指がまだ頬を離さないロイのそれに重なった。

「…この力加減ではまだ痛みが足りんか?」
言いながら、もう片方の頬にも空いた手を伸ばしたロイの指先をさりげなく避け、ハボックは困ったような
笑顔をみせた。
「…俺、どうしましょう」
「……何がどうしましょうだ」
「大佐に気持ち悪いって言われた時の対処法とか、すまんがお前をそんな気持ちで
見れないだとか間に合ってるだとか言われた時の見苦しくない去り方ばかり考えていて…こういう事態は想定
していませんでした」

徐々に表情が緩んでくるハボックと対照的に、ロイの眉根の皺は深まっていった。
「…貴様は 真摯な気持ちを訴えてきた相手に対し、私が気持ち悪いと返すと思っていたということか?」
「いや、そうじゃなく…最悪の事態を想定しておけば、俺はそんな見苦しいマネ晒さないで大佐に迷惑をかけずに
すむかなって
…その…すみません」
身長差の都合上、どうしても上目遣いでにらむ形になるロイを、かわいいと思ったハボックが慌てて表情を引き締める。

「大佐がそんな人じゃないとは解ってたんスけど……」
「参考までに聞いておきたいが、私が気持ち悪いと言っていたらどうするつもりだったのだね」
「その日は平気なふりをして仕事を定時まで勤め、夜ヤケ酒して潰れる予定でした そしてその後はアンタの背中を、
中尉の次ぐらいの場所で守っていこうと」
「…では、万が一……百万が一…気持ち悪いから、私の部下から外す二度と姿を見せるなと言っていたら?」

「あー…その話題は無しにしませんか」
「…世の中には聞かないほうがいい事もある…という事態を想像した方がいいのかね」
「いや、まあ……おれ自身もどうなったか考えつかなかったし…大佐はそんな物言いはしないと信じてますので」

他意のない、さりげない口調がハボックの信頼をそのまま示していて、ロイは微笑む。
「そこまで色々悩んでおきながら、何故イエスと答えられるパターンを考えておかないんだお前は」
「……そういや……何でなんです?」
「何がだ」
「いや、何で 俺の申し込みに……いいだろうって…」
ハボックの物言いに、しかめ面を作ろうとしたロイは、そこに叱られる寸前の犬の表情を見て
思わず吹き出した。
「簡単な答えだよ ハボック 私もお前を好きだったからだ」
そう言ってハボックの襟を、自分の元に引き寄せたロイは軽く唇を重ねた。
「私は上官だし、年上だしお前は女好きだしで…言わずにおこうと思っていたが」
にっこりと笑いながら、仕事だから出て行けと背中を押されたハボックは、背後で扉が音をたて
締められたあとも、呆けた顔のままだった。

「おいハボック 顔真っ赤だぞ」
何があったと問いかけてくるブレダに、しどろもどろで言い訳をするハボックは、扉の向こうで
今、ロイが似たような表情をしていることを、残念ながら知らない。


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「部下から外す」と言われたハボックが逆上して黒ハボにチェンジヤンデレ襲い愛R-18というのも
萌えますがどうやっても私の筆力ではかけません 誰かに期待(笑)