緩やかな戒め



「ああ それなら愛してますから」
リハビリ後復帰したハボックは、ロイの贔屓目を差し引いてもよく
似合っている髭のおかげで、年以上の余裕を漂わせている。
薄く笑って返ってきたロイへの返事も、冗談めかしているが嘘
ではない本気を巧みに含ませていて、ロイを困惑させた。

「お前は…脈絡ない上に始終同じことを繰りかえすな」
ロイの質問は、リハビリ以外の休日を自分の傍で過ごすのが
退屈ではないかというものだった。
一度リタイアする前の、真っ直ぐロイの後を追ってくるだけだった
ハボックは、ロイに好意を示す事はあったがこうもあからさまでは
なかった。

年齢に似合わぬ男らしい渋さを纏う、今のハボックの方が愛だ
恋だといった台詞を、臆面もなくロイへと口にする。
当初は困惑していたが、それも重なれば挨拶と同じだ。
耐性のついたロイは、ハボックの微笑へ軽く手を振って流そうと
したが、その手首を軽く握りとめられ、動きが止まった。

「そうっスか? 俺としては充分つながりのある答えなんスけどね
大事な人と一緒にいられるのを退屈なんて思える程 枯れちゃ
いませんし」
握ったロイの手首をそのまま引寄せ、ハボックはその掌に唇を
落とした。
そんな大仰な仕草も悠然と行なえるハボックに、ロイの方が羞恥
を覚え頬を染める。
「それに…繰り返さないとアンタすぐ忘れるでしょ」
「…私が、忘れる?」

何をだという部分を省略した問い掛けは、それでも充分通じた
らしい。
ロイの手首を握ったままのハボックは、真摯な眼差しでロイへ
向き直った。
「ロイ・マスタングが愛されているということを あんたが、必要と
されていることを」
「……お前の、言っている意味が…わから…ない」

韜晦でも逃避でもなく、途方にくれた子供のように素直なロイの
惑いに、ハボックは優しく笑った。
「今はまだイシュヴァール政策やホムンクルスの生き残りの監視
シンとのやり取りだといった制約があるからあんたは地に足を
付けてくれている…でも全てが問題なく治まったら」
一度言葉を切ったハボックは、その微笑のまま告げる。
「あんたは、もうやるべき事はやったからと言い訳付けて…
親友の元へ行きたがるでしょう」

柔らかい笑みの、容赦ない言葉。

ひゅっと小さく息を呑み、目を瞠ったロイの様子すらハボックは
楽しげだ。
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ちょっと長くなったので続けます