オマケ


東方司令部のコーヒーと食事は、美味しくないということで有名だが量
だけは軍人相手だけあって、一般以上だった。
同じAランチセットに、更にサイドメニューのオムレツを追加している
ハボックがまだ足りないとクロワッサンを買いに行ったのを見て、ロイ
がげんなりと口端を曲げる。

「……よく入るな」
「今日の午前中は体仕事だったから、腹減ってるんスよ」
すでに二つ目のクロワッサンを口にしているハボックが答えるが、ロイ
の眉根は寄せられたままだ。
「初めて会った時も、尋常とは思えん量のパンを買っていたようだが」
「あーまあ ホラ成長期って栄養必要だし?」
「お前はいつまで成長する気だ図々しい それだけデカい体を持ってる
のだから維持が大変なのは分かるがな」

一般平均以上の身長は持っているが、ガッチリ・でっかい・ムッキムキの
漢達が集う軍部内では、ロイは平均ギリギリの部類に入ってしまう。
ハボックの長身を少しうらやましいと思っている自分を悟られぬよう、
涼しげに返したロイは、次のハボックの台詞で固まった。
「いやーまあ確かに成長期は冗談っスけどね 俺今年また一センチ伸び
てたんスよねー」
「…まだ成長してるのか!? 今で十分じゃないか」
「いやまあ…俺は十分なんですけど 自分の意思で身長を止められない
もので」
自分の頭頂部をポフポフと掌で叩くハボックは、私服なんかも結構サイ
ズが限定されるしと苦笑していた。

「まあ大佐殿の弾除けにはデカい方がいいでしょ?」
何気なく肩をすくめたハボックの冗談に、ロイの顔から不快な色が滲み
でた。
「私は人を弾除けにするつもりなどない そして…私の部下であれば誰
であっても死なせんようにするのが私の務めだ」
そう言ってコーヒーを啜ったロイは「不味い」と眉をひそめる。

…かっこいいな、オイ

ハボックの内心の賛辞に、視線で気づいたらしいロイが口端を微かに
上げる。
「見直したか? だが惚れるなよ同性はパスだ」
「男として憧れる発言でしたが 惚れませんよ俺は胸がばいーんとした
お姉ちゃん一辺倒です」

―こう…何というか新卒みたいな上役だなと思っていたら、想像以上に
男らしくて…ときめいたけど
内側の呟きを声にしては、薮蛇だとハボックは口をつぐみロイを見返す
と、今度は初めて逢ったときのイタズラ小僧の表情だ。

「なんだ つまらん」
「……アンタは俺の心をどうしたいんスか 弄ぶ悪女ですか」

軽口を叩き合う二人は、この後今の会話が原因でお互い悩むことになる
のだが、今は気づいていない。


************************
日 「同性はパスなんて…何故いってしまったんだ私は」「お姉ちゃん
一辺倒なんて答えなきゃよかった…!」と葛藤するといいと思います