計算デート



明日はハボックと初めて、プライベートで出かける予定だ。
…偶然を装ったふりをして、視察でハボックが好きそうなタイトルを上映
している映画館前を通り、自分も面白そうだと思っていたから一緒にどう
だの誘いは成功した。

そして、目論見第二段は告白すること。
…まあ、本気でどうこうと言えば引かれるだろうが…好意を持っていると
伝えて、良好な関係のままいたいとだけでも…伝えたいと思う。

女性相手であれば、ある程度きっちりした格好は好感度を上げるが上司と
出かける部下には気遣いをさせてしまうだろうと、シンプルに白シャツと
黒のスラックス。
そこそこ顔が知られている自信はあるので、ダークグレーのハンチングを
目深にかぶって待ち合わせ場所にいれば、少し探しにくいかと案じていた
懸念は不要だったようで、長身の金髪はすぐにこちらに向かってきた。
「…よく わかったな」
何が、と口にするまでも無く人相のおおよそを隠してる帽子を意味してる
と、ハボックは解ったのだろう。
青空を背に、気持ち良い笑顔で一言「わかりますよ」とだけ答えた。

誘ってくれたんだからお礼にと渡された、バケツサイズのポップコーン。
…これを食べては、終了後に腹が減ったと食事に誘う口実がなくなってし
まうではないか。
だが人好きする笑顔で「映画といえばこれっスよね」と炭酸飲料とハボック
に差し出されては、断れるはずもない。

映画に夢中になってるハボックは無意識なんだろう、肘置きの上で偶然
重なった掌を軽く握っていた。

――どうしよう、映画が終わってしまった
食事を誘うパターンでしか考えていなかったから、この後が思いつかない
女性であれば少しお茶でもと言えるが…ハボックはあまりそう言った休憩
は好まないだろう…
困った、ここで別れたくない …だが引き止める理由がみつからない

ぐるぐる考え込んで無言になってしまった私を、ハボックが怪訝に見下ろ
し首を傾げた。

「大佐 …具合でも悪いっスか?それとも映画趣味じゃなかったとか…」
「あ…いや そんなことはない!断じて無いぞ!!気分は最高だしっ映画
は感動だった!!」
「…そっか 良かった」
安心したように微笑むハボックに、こちらもつられ微笑む。
実際はハボックばかりを気にしていて、映画の内容なんてまったく頭に
入っていないのだが。

「せっかくのデートだもん 楽しくいきたいっスよね」

「…………は?…今……」
聞こえなかった訳ではない。
だが、さらりと告げられた単語が空耳ではなかったの確証もない。
目を丸く見開いてハボックを見上げる様子に、向こうもあわてた様子で
聞きなおしてきた。
「えっと…俺は今日 大佐とのデートのつもりだったんスけど…あの…
違って…ましたか?」
「ち、違ってない!間違えじゃないぞっ」

このまま何も告げなくても、気持ちは伝わってるということだろうか。
頬が赤らむのを自覚しながらそっと指先を伸ばすと、ハボックの大きな手
が掌ごと包んだ。
繋いだ手先が温かいと、ハボックを見ればその頬も赤らんでいて、無言で
歩く道のりは、気恥ずかしく…そして楽しかった。


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ツンデレじゃないロイを書いてみようと頑張ってみたら、間違えたロイになりました