お目付け役
*注 現時点での本誌設定でのお話ですのでネタバレパスの方御注意下さい
来月には状況変わってるかもしれませんがご了承下さい


ブリッグズ軍とマスタング組によるセントラルの制圧に成功したとの連絡は
ラジオ越しでアメストリス全国民に即座に放送された。

ロイが大総統になったと、ハボックに連絡をくれたのはブレダだった。
これからは後処理で忙しいだろうし、しばらくは働きかけも控えるかと喜び
とともに一抹の寂寞をどこかで感じたハボックが、店じまいの準備に入る。

「あ、スンマセン今日はもう閉店……」
カウベルの音で振り返ったハボックの台詞は途中で止まった。
「よぅっ」
夕日の薄い光での逆光ではあるが、その独特の体型は目に馴染んでいるもの
で、深みある声も記憶に確かに刻まれているものだ。
「よぅって…ブレダお前 何でここに?今そっちは大変だろうが」
「ああ大変だよ だからお前を迎えに来たんだ」
「……意味 わかんねえよ」

自分の足はまだ動かぬままなので、とても軍部に入隊は無理だ何より適正
検査でまず落とされると言うハボックの主張に、ブレダはさらりと
「お前は今回の騒ぎの影役者で 退職したフリで俺らをバックアップする役
だったという設定になってる…つまりは現時点では休職扱いだな」
肩をすくめ返した。
「…んだよ それ…」
「とにかく!お前が必要なんだよ グダグダ言わず現状をその目で見て改め
て無理だと思ったら大総統に直接辞任の意思を伝えろ」
俺は知らんと言い切るブレダの表情は、悪意でも放置でもなく純粋に友の
復帰を喜ぶものでハボックの雑言を封じた。


久しぶりの軍服は、どこか少しきつい。
覚えのあるかつての執務室前を通過し、明らかに他とは違う装飾が施された
大扉が開かれると、そこにはかつての仲間たちが揃っていた。
「お久しぶりっス…えっと…」
肩章を見たハボックが、瞬時言いよどんだのを察したホークアイが続ける。
「今は准佐よ 久しぶりねハボック中尉」
「中尉?」
「その制服の肩章を見ていないのかしら?貴方は影の功労者だもの 流石に
二階級…とはいかなくても十分にその資格があるわ」

「いや その気持ちはありがたいんスけど…正直今の俺がここで役立てる
とは思えません 資格以前に不適合じゃないっスか」
「役立てるかどうかは大総統にお会いして判断して頂戴 今は隣室の執務室
にいるわ」

言いながら車椅子の押手をブレダから引き受けたホークアイが、隣室の扉を
叩いた。
「入れ」
自分より年上とは到底思えぬ、甘めの声。
机につっぷしたまま『もう仕事はしません』の姿勢も、らしくてハボックが
思わず含み笑いを洩らすと、ロイの体がピクリと揺れ起き上がった。
「…准佐 誰かいるのかね」
ロイの視線は、確かにハボックの方を向いている。
どういうことだと笑みを消し無言で瞠り振り返ったハボックに、ホークアイは
ゆっくり とした頷きを返した。

「大総統 書類決済補佐の任官が決まりましたので連れて参りました」
「なっ……そんな役職はいらんと言っただろうっ」
「しかし大佐……いえ失礼いたしました大総統こういった形の者を一人指名
しませんとどこかの誰かさんは目を理由に 本当に必要でないと判断された
書類の前からは逃亡されますから」
「そんな…ことはない…と思うが」
「目がご不自由ですのに色々手助け無しでは無理でしょう 私の仕事も雑多
ありますしご了承願います」
記憶とたがわぬやり取りと、記憶の中とは異なる周囲の状況。懐かしさと
嬉しさとほんの少しの疎外感が入り混じり、ハボックは苦笑した。

「察してる通り現在マスタング大総統の視力は失われております それでも
軍部内での圧倒的支持とブラッドレイ前大総統夫人の意向により この方が
この国のトップとなられました お願いしたいのは書類の読み上げとサイン
などの補佐よ」
言いながら、ロイの真横へと近づけられる車椅子。
ロイの右手を取ったホークアイが、その掌をハボックの頬に重ね添わせる。
そのまま記憶を探るかのように、ハボックの顔を指で探るロイを後ろ目に
ホークアイは部屋外へと出て行った。

「……髭……?まさか…ヒュ」
「大佐――ここでその名前を出されたら 俺本気でへこみますよ」
力強い指が、ロイの手首を拘束しその動きをとどめた。
「ちがっ…ヒューズの筈がないしと続けようと…………ハボ……?」
「そうっスよ …ただいま」
万感の思いを込めた囁きを、すぐには信じられないようでハボックの指を
解いたロイは、幾度もハボックの顔を掌で撫でる。
「な…お前……髭……?」
「結構似合ってるって言われるんで大佐…じゃなかった大総統に拝んで貰え
ないのが残念です」
「……お前まで……」
「は?」
「ハボックのクセにずるいぞ!私が大総統になったから髭を生やそうとしたら
全員が反対したと言うのに!何でお前はヒゲを生やしてるんだっ」
「…感動の再会 最初のお言葉がそれですか」
ククッと喉奥で笑うハボックに、ようやく我を取り戻したらしいロイがゆっくりと
その腕をハボックの背中へと廻した。
「ちゃんと、追いついてきたな…ハボック」
「はい お待たせ致しましたもう離れません」


「准佐ー 大総統の印鑑欲しいんだけどいる?」
「あらエドワード少佐お久しぶり 今日はまだ篭ってるままよ調度お茶を
淹れるところだけど…よかったらいかがかしら?」
ホークアイの誘いにのったエドは、座り心地のよいソファにどっかりと腰を
降ろすと、丁度いいとばかりに周囲に向き直った。
「…あのさ…俺この前大総統室に入ったとき ハボック中尉が大総統の耳元
で囁くようにして書類読んでたんだけど…あれって普通なのか?」
「あーそりゃ運がよかったな まだ普通だ」
にやりと笑ったブレダに、眉根を寄せて普通じゃねえだろとエドは返す。

「一応 国家機密書類だからな万が一にも読み上げで盗聴器や外部に情報が
洩れたら困るから…と理由付けてるが…最重要書類なんてもっとすごいぞ」
「…あんま聞きたくねぇけど…すごいって?」
「大総統がハボックの膝の間に座って書類決済してる」

ブフォッと大仰にエドが紅茶を吹き出すのを予想していた面々は、見事に
その飛沫を避け拭き布を渡す。
「エドワード少佐…お茶に誘って悪かったみたいちょっと遅かったわ 今部屋に
鍵が掛かったから…今日は無理ね」
「ん?でも部屋にいるんだろ ノックすりゃ開けんだろ」
「鍵が掛かったのは最重要機密書類を処理する時で 困ったことにあの二人
の勤務時間はあと5分でリミットなのよ」
眉根を寄せて小さくため息をついたホークアイに、エドが恐る恐る伺う。

「……ほんっと できればっ!極力!!…聞きたくねえけど…リミット過ぎると
どうなるんだ?」
「さあ?私も関わりたくないから極力寄らないようにしてるけれど 以前うっかり
扉を開けかけたときは『まだツケは回収できてませんから』とか『今日はサボら
ない…って言ってましたよね お仕置き必要ですか』と聞こえたので何も聞か
なかったことにしたわ」
「仕事中だろっ……って あぁ、それでリミット設定……了解」
勤務時間内に真面目にやっていれば、多忙な副官殿はそれ以上踏み込まぬ
という暗黙の了解が出来ているようだ。

「一応まだ勤務時間ではあるし そもそもそういう場所じゃないんだから
エルリック少佐が 錬金術で中入っても文句は言われないと思いますが?」
わざと丁寧な言葉で喋るブレダは、すでにその事態に馴染んでいるようだ。
「絶対!断固!!金を詰まれても断る!!」

なんでアレを大総統にしたんだとのエドの力失った問いは、『それでも 仕事は
きっちりやってるから』との揃っての返答で終了とされた。
「…俺 明日また来るわ」
「午前中のほうが安心ですよ 流石にまだお二人とも自粛されてますから」
にこやかなフュリーの言葉は、『平和って良いことなんだよな うん』と
ひたすら自己暗示をかけるエドに届いていたかどうか定かではない。

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昨日の髭ハボ絵チャ祭りが元ネタです
「考えたらロイ 本誌このままじゃハボックの髭拝めない!」
「ロイの為に成長したハボックなのに!!」「そういやロイはまだ髭になった
ハボック知らないよ!」の流れから、鋼錬はその辺シビアだからロイの目とハボの
脚はどうなるか解らないよね…でも一緒に仕事はできる!と上記運びになりました
次月号で設定総崩れになるかもですが、とりあえず勢いのまま文章とさせて頂きました
 多くの萌えごちそうさまでした楽しかったです

なおこの後ハンコ一押しにつき一突きですねとか耳元囁き攻撃ですねとかさぼるとツケを色々
払わされるのですねなど大変妄想おいしゅうございますの会話もあったのですが、大変残念な
ことに私の筆力&画力では表現できませんでした …誰か描いて(or書いて)ください(笑)