自覚なし/ハボック


納得のいく上司ではあるけれど、日頃のウサが無い訳ではない。
むしろ、日頃の些細な出来事ではサボる逃げる面倒ごとを押し付ける
と指折りで確認できてしまうロイに、絡んでみようと仕掛けた飲み会
でハボックとブレダはその目論見を成功させた。

「…で どうする?」
ノリと勢いで、ワインとブランデーに東洋産だというライスワインを
ブレンドした酒を飲み干したロイは、つっぷしたまんま自力歩行は
不可能な様子をみせている。
「お前大佐の家知ってるんだろ まかせた」
「ずっりィ ブレちゃんっ自分だけ逃げるつもりかよ」
「…士官学校でのレポート」
ボソリと返された低い声に、さんざん迷惑をかけ倒した記憶がある
ハボックは「うっ…」と黙り込んだ。

「…しょうがねぇなあ…」
よいせと小さな掛け声で、ハボックはロイの片腕を自分の首に廻させ
腰を抱き立ち上がる。
「今日は俺ん家に泊めるから 後よろしく」
呑み比べをする前に、きちんとロイから掛け金をせしめていたブレダ
はまかせておけと伝票を振って、支払いへと向かい二人と別れた。

「大佐…ほら俺のベッド貸しますから コート脱いで」
ロイを寝台へと腰掛けさせたハボックが、移動中に風邪をひいてはと
着せたコートを、脱がせようとロイの腕をとった。
「うん…」
「うんとかいいながら、全身で寄りかからんでください」
「ん― …ん」
聞いているのかいないのか、曖昧なロイのくぐもった声は変わらなか
ったが、ハボックが脇に座った瞬間ロイの身体は傾きその胸にもたれ
かかる形となった。

反射的に抱きとめてしまったハボックの困惑をよそに、ロイは猫の
ように軽く頭をすり寄せ、幸せそうに笑った。
「あー…こりゃ完全に酔っ払ってるな…」

仕方がないと小さく吐息したハボックは、片手でロイを支えつつ片手
でロイのコートを器用に脱がせる。
逆らわずされるがままだったロイだが、ハボックがロイを横たえ寝台
を離れようとした瞬間、動きが豹変した。
素早く起き上がると、ハボックの両腕にしがみつき
「なんで離れるんだっ!?」と上目で睨む。

「…なんでって……二人で寝るには狭いっスよ」
「構わん」
「俺が構うんスけど…」
「…はぼっく…そん…なに…わたし…が嫌いなのか…」

酔っ払いの超越した理論は、度し難い。
何でそうなるんだとの反論も、涙目になりそうに潤んだ瞳で睨まれて
は封じ込められる。

…明日が休みで良かった
(だからこその無茶な飲み比べだったのだが)

ロイと同じ寝台で過ごす羽目になったのは、憂さ払いの計算違いだ。
飲み会の予定をたてたブレダをハボックは少し恨んだが、不思議と
寝苦しさはなく、温かい気持ちで眠りへと誘い込まれた。