自覚なし/ロイ


――頭が鈍重い
そしてずきずきと痛む

この薄暗さならもう一寝入りしても大丈夫なはずだと、掛け布団を首
に引っ張ろうとした瞬間かちりとドアノブが廻った。
「あ、起きたんスか?」

…何故ハボックがここにいるのだろう
ああ、そうかこれは夢だ 自覚がなかったが、こんな夢にみるほど
自分はハボックを好きなのかと少しおかしくなる。

ぼんやりとハボックを見詰めていると、返答がないのを案じたように
彼が大股で歩み寄ってきた。
「…まだ酔っ払ってます?顔赤いっスね…風邪ひきました?」
武骨な手だ。大きく、骨ばって…そして温かい。
前髪を梳くって額に伸ばされた掌は、熱はないかとの呟きの後離れて
いった。
その温かさが離れるのが寂しくて、咄嗟にハボックの腕を両手で掴ん
だら、その顔に不審の色が浮かんだ。
「…何スか?」
「あったかいのが良いんだ」
寝ぼけているとはいえ、我ながらどういう返答だ。
「えーっと…俺の手があったかいから離れるなって事っスかね」
なんだ 解っているじゃないか。

当たり前だ、これは私の夢なんだから
すこしぐらい私の都合良いように、展開してくれて当然だろう。
ハボックはどうしたものかといったように固まっているので、説明も
面倒だからそのまま腕をひっぱり、枕もとに座らせる。

よし、逆らわないぞ。
だったらもう少し、現実ではできないことをしてみよう。
ハボックの腿を枕代わりに、もう一寝入りだ。
「…っ!大佐っ!?」
うるさい 夢の中でぐらいこれ位させてくれてもいいじゃないか。
何もキスを迫っただとか、半裸で押し倒したとかしている訳じゃない
のだから。

「……案外、寝心地よくないな……柔らかくない…」
「女性の膝枕と比べんでくださいよ」
「ふむ…夢でも……理性は無理な感触を与えぬ…のだ…な…
だが…しっかりして…悪くは……」
ものすごく安心な場所にいるという安らぎ。

「大佐〜 ローイー マスタングたいさ〜…駄目だ、起きねえ…
…俺ももうちょっと寝ようかな」

意識が闇に沈み込む直前、頭をそっと持ち上げられる感覚がした。
そのまま傍らにもぐりこんできた躰は、この上もなく温かい。

揺らぎが少ないよう下ろされた頭は、ハボックの二の腕の上。
狭い寝台であることと、普段のクセでロイはハボックを抱き枕代わりに
再び眠りにおちいった。

太陽が頂点に昇る頃、二日酔いにふらつく頭で目を覚ましたロイは、
自分の状況がつかめずハボックが目を覚ますまで、腕枕の上で硬直
をしていた。