フラグ成立


「…大佐って…僕なんかがこう表現するのも失礼ですけど…ハボック
少尉が相手だと 変な意地張ってるとこありますよね?」
揶揄ではなく、純粋に疑問だと首を傾げるフュリーに、ハボックは眉
を少し上げた。

その表情は不機嫌だというのではなく、フュリーが何を言ってるのか
わからないといったもので、確認したいとばかりにファルマンの方へ
顔を向けた。
咥えたタバコを揺らすという動きだけで、せかされていると理解でき
てしまうコミュニケーションもどうだろうと、少し苦笑したファルマンが
頷くと、ハボックの視線はそのままブレダに向けられた。

「大佐も気付いてないし、お前も気付いてない…そして問題ないなら
いいじゃねえか」
まきこまれるのは御免だとばかり、そそくさと部屋を出ようとした
ブレダは、親友の『俺頭悪いからわかんない ブレちゃん解説』
ビームを掌で蹴散らして、顔を背けた。

「…って事はなに!?ここにいる奴ら全員公認で俺が大佐に
煙たがられてるって事?」
ショックをうけたハボックに、発端となったフュリーが慌てて違うと
首を振った。
「違いますよ少尉!煙たがってるとか嫌がってるっていうんじゃなく
…なんていうか…例えば何ですけど、僕や大佐じゃ微妙に背が届か
なくて、でも少尉やファルマン准尉だと手が届くって場所に物を置こ
うとするじゃないですか」
「ああ」
「で、そういう場面見かけたら お二人とも手伝おうとしてくれます
よね?」
「そりゃあ 俺らの身長なら普通に届くんだろ?それぐらいするさ」
「で、その場合…大佐がファルマン准尉に『頼む』って物を渡すのは
想像できるんですが…少尉で想像すると『自分でやる』って大佐は
言いそうな感じなんです」

「…ファルマン相手だと大佐 素直に『頼む』って言うんだ?」
質問というなの確認を取るハボックに、ブレダはしょうがねぇとばかりに
小さく息を吐いた。
「ふてくされんな 別に大佐は贔屓とかしてる訳じゃねえぞ」
「…別にふてくされちゃいねぇけど…俺がなんかしようとするとこの
前なんか『余計なことするな』だぜ?…何でって思うじゃん」
言葉と裏腹に眉根を寄せたハボックの肩を、ブレダが軽く小突く。
「罪のないファルマンを睨むんじゃねえ 同じ事をする前の手順が
違うんだよ」
「手順?」
「例えば…だファルマン 大佐が一生懸命背伸びして棚上の箱を取ろ
うとしてたらどうする?」
「…どうする…とは…横に行って、大佐によろしければお取りします
といって箱を渡しますが」
「ハボック お前だったら?」
「同じだよ 箱を取って渡す」
「同じじゃねえよ ステップ一つ抜けてるだろうが」
ブレダの言葉がよく飲み込めないらしいハボックに対し、理解できた
らしいファルマンがなるほどと頷いた。

「つまり…少尉の行為が大佐のコンプレックスを微妙に刺激している
のではないのでしょうか」
「…お前と同じ事をしてるのに?」
やっぱり解らないとばかり、眉根を寄せたままのハボックに、ブレダ
は首を振った。
「ワンステップ抜けてるだろ お前に取っちゃ過程→結果が同じだと
思ってるだろうがその前に『お取りします』という形で一言あれば
大佐だって『頼む』とつなげられるだろうが」
「俺の場合は?」
「黙って後ろから手を伸ばして箱とって、はいって渡すだけだろ…
大佐の性格からすると どう考えても素直にお礼を言い出しにくい
だろうよ」

「結果は一緒だからいいじゃん」
納得いかないとばかり、据わった目をしたハボックに
「他に関してはまあそう取れるだろうが…大佐は一般的には平均以上
の身長あるけど軍部だとよくて中肉中背ってところだからな
『これみよがしに』って態度に映るんじゃねえの」

「そ…それって漫画のぶっきらぼうだけど優しい不良と 素直になれ
ない優等生のやり取りみたいですよね!」
フォローとばかりに笑顔で拳を握るフュリーに、残りの面々の内心の
ツッコミは『それは…恋愛フラグじゃないのか』であったが、誰も
口には出さず、互いの表情を窺っている。

「そうだよなっ ツンデレとぶっきらぼうってアリだよな?」
「はいっアリだと思います!」
明るく笑顔になったハボックに、同じく明るくフュリーは元気一杯に
返した。

「…フュリー…断言するな……」
大佐攻略の路線を見つけたハボックの、これからの行動を予測した
ブレダは、自覚ないままのロイと、自覚をして行動するハボックとの
鬱陶しい光景を目にすることが増えそうだと、肩を落とした。