後先


大佐が何気に読んでいた雑誌を伏せて、お茶を入れてくると席を
たったのは5分も前の出来事だ。

この様子では作り置きのアイスティーでなく、水から沸かしている
らしい。
大佐が読書の最中にそんな手間のかかる行動をするのは珍しくて、
雑誌を取り上げて記事を追ってみると、開いたページにあったのは
その月の号の特集だった。

『貴方は愛する人より 先に死にたい後に死にたい?』

――鬼門中の鬼門じゃねえか、これ。
性質の悪い上官に当たれば、部下の死を自分の勲功に割り当てられ
たりもする世界で、この人は誰も死なせないを誓いにしている。
そして、愛する人…実の親や一番の親友に先立たれ、強い人なのに
誰より修羅場を潜り抜けているのに、ひどく死に対して不安定だ。

俺もできるなら、愛する人に先立たれる哀しみはあまり味わいたく
ないけれど。
…大佐を一人残してくとなっては、心残りが多すぎてきっと成仏なん
てできやしないだろう。

「口では色々いいながら、兄さんも大佐も いざ周りに何かがあると
危なっかしいぐらい、自分の事を顧みなくなるよね
フュリーから聴いた、アルフォンスの大佐評はこれ以上も無い的確
な表現だ。
目を離した隙にでさえ、無理ばかりをしているのに、死別してもう傍に
いる事さえできなくなってしまったら――

日常生活もままならないこの人が、やせ衰えていないか。
本当は情が深いこの人が、壊れていないか。

誰かに想いを寄せるのが辛くなって、心を閉ざしてしまっていないか。
――大佐が俺ごときの存在で、そんなに心を動かすことはないかも
しれない、そう心に言い聞かせてみても…それでも不安は尽きない。

「まあ理想は、ほぼ同時に旅立てることなんスけどね」

誰に聞かせるでなく呟いた言葉は、自分しかいないこの場で小さく
響く。

そんな事態があるとすれば、戦闘中や不慮の事故にでもまきこまれ
た場合だけで、納得のいく死ではないだろう。
…それでも一人残していく不安もなく、一人残される恐怖もなく…
その想像はすごく甘美で、禁忌だった。

戻ってくる大佐に、俺がこの記事を読んだ事気付かれぬようそっと
雑誌を元の位置に戻し、大佐が苦戦してるであろう台所へと俺は
足を向けた。


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ロイの場合はラスト戦の時のハボックへの叫びがあるので絶対残されたくない派だよね
…と思いつつも「お前より長生きしてミニスカ帝国を作るのも悪くない」と答えちゃうのが
ツンクオリティ