バッドタイミング


「そういや、人の悪口って『本人のコンプレックス』が無意識に
出てくるんだってさ」
ホークアイ中尉が不在だと、フュリーの淹れてくれた紅茶を
すすっていたエドワード。
その目の前で大人げなく、軽い口げんかの応酬をひろげていた
ハボックとロイ、どちらに言うでなくエドはそう言った。

「ああ、聞いた事がありますね 自分の体重を気にしている人は
相手が気に食わないと『なんだよこのデブ』って思うとか 自分がケチなんじゃ
ないかと思ってるものは 損得沙汰で咄嗟に『ズルい』と言ってしまうとか」
生きる事典呼ばわりされているファルマンの返事に、その場の誰より
体重がありそうな人物に視線が集まる。

「俺?ああ…誰であれデブとか思ったことはねーなあ…まあぽっちゃりだな
こいつと思うことはあるけど」
「お前のぽっちゃりは幅広すぎだと思ってたけど 納得したわ」
ポテトチップスを咥えたまま、書類にむかうブレダに、ハボックは「お前自身の
体重をもう少し落とせよ」と苦笑を返した。
「俺が気にくわねえ相手に思うとすれば… 本能だけで動くなバカ ちっとは
頭使えよってって所かな」
ニヤリと返すブレダは、ハボックへの皮肉とともに、自分が気になるのは
頭脳方面での評価だと含みをもたせ、周囲をなるほどと納得させた。

「なるほど、確かに鋼のは相手が自分より少しでも小さいとチ…んぐっ!」
茶々をいれるべく、軽い口調で割り込んできたロイの口を掌で無理やり塞いだ
ハボックは「誰が豆粒ドチビだ!」の叫びをなだめるのがめんどくさいの
状況判断だろう。
エドが逆上しているのを面白いと思えるのはロイぐらいで、大方の判断は
「大佐 大人げない遊び方しないで下さい」の意思で統一されている。

「じゃあハボック少尉は大佐とやりあう時何て言ってるんだ?」
チ…に続く言葉を敏感に察していたであろうエドワードだが、この状況での
逆上はまずロイを興じさせるだけだろうと、話題をハボックへ振った。

タバコをふかし、目線をそらすハボックを見たロイはにんまりと笑う。
「教えてやろう鋼の こいつは、たいてい『ちょっと色男でもてると思って
人の心もてあそんでいつか痛い目みますからね』と私に言って来るんだ
すなわち、自分がもてないコンプレックスだな」
即座の反論は、
「お言葉を返しますがサー 大佐殿の場合『少しばかりガタイがいいからって
たいしたことないんだからな』ですよね これって大将と同じで自分の体格に
コンプレックスっすかね?」

にっこり微笑んだまま、空中で視線の火花を散らす二人。エドが割り込む前の
応酬が続いているのだろうが、周囲にとっては充分な脅威だ。
「…俺 関わりあいたくないから今日はこれで帰るわ」
そっと席を立ち、その場を去ろうとしたエドの腰にフュリーがすがりつく。
「中尉がいない今、僕らじゃ二人をとめられないんですっ!」
「大将 ネタ振って逃げるのナシな?」
「お願いします」
ぽっちゃり代表と、博学長身代表も逃がさぬとばかりにエドを席へと押し戻す。

窓際の凍った笑顔対決と、逃走たくらむエドと、それを逃がさぬ対決。
そこに伝達書類をもってきた、総務課新人は間の悪さゆえに訪れた瞬間
一身に全員からの鋭い視線を浴び、しばらく伝達役になるのにおびえた
日々をすごす羽目になったのだった。

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大佐のモテ男ー!ばかー!!でもそこも好きだというハボと、私の身長は平均よりは大きい!
お前がデカすぎるんだ!かっこいいかもしれんが負けない!というロイの自覚ないハボロイ(笑)