植え込み奥


「不肖ながら私ことケイン・フュリー 本日の補給訓練で装備品を
うっかり落とすというミスをして、チームをびりにしてしまった為
罰ゲームを実行することになりました ここに罰ゲーム開始を宣言
致します」

どこから調達してきたのかは不明である、トイレットペーパーの
芯をマイクのように持った、フュリーの実況中継アナウンスに
面白がる表情のブレダと、無表情のファルマンが裏庭を指した。

「えー…本日の大佐とハボック少尉は 裏庭北 植え込みに囲まれ
うまく隠れた木陰でランチのようです」

フュリーに与えられた指名は一つ。
ハボックとロイの昼食から、それぞれ何か一品をもらってくると
いうもの。
上に嫌われている部下であれば厳しい命令かもしれないが、
フュリーの温厚な性格と、それほど上下関係を意識させない
ロイが相手であれば、軍部という場所では比較的楽な罰ゲーム
であっただろう。

「えーっと…あ、いますね あの木の……」
言葉を途中で飲み込み、フュリーが困った顔で二人を振り返った。
樹木の植え込みの陰に、確かにハボックとロイはいた。

だがすでに昼食は終わってしまったらしく、ランチボックスは空に
積まれ、木にもたれ一服するハボックの横で、ロイは眠っていた。
ハボックがシャツ姿なのは、ロイに上着をかけているからだろう。
布団代わりのそれは、少し大きく、ロイの上半身を包み顔をうまく
隠している。

「お昼…もうないですね」
「そうだな じゃあ今寝てる大佐を起こしてくることで勘弁してやるか」
ブレダの問い掛けに、フュリーはぶんぶんと首を横に振った。

「そんな!お昼休みあと三十分もあるじゃないですか あと5分なら
ともかく 今起こしに行ったら確実に大佐の午後の勤務が不機嫌に
なります!」
「そこを相手するのが フュリーお前だ」
ブレダのいい笑顔に、親指を立てて健闘を祈るポーズのファルマン。

半べそ状態のフュリーが、植え込みから姿を現そうとした瞬間に、
ブレダがなぜかその裾をひいた。
「あ、やっぱやめとこ」
「え?」
「大佐 今日夜勤もあるからな まあ…明日のランチ一品強奪って
ことで今日のところは仕事に戻るか」
「え?え??」

こっそりと植え込みづたいに動き、兵舎の方へ戻る三人。
律儀にトイレットペーパーの芯を握ったまま先頭をいくフュリーは、
首をかしげながらも、大佐の睡眠を邪魔するという恐ろしい刑から
逃れられたことに安堵している。

「…あれ 絶対こちらに気付いてましたよね」
「でなきゃアイツが まだ火をつけたばかりの煙草けさねえよ」
フュリーがハボック達に背を向けいている瞬間、ブレダとファルマン
の目に映っていたのは、咥えていた煙草を消して、体を前方へ傾斜
させるハボックだった。

見たくないぞと即座に目をそらしたが、あれは一緒に並んで寝ようと
いう体勢でなく、あきらかに顔と顔を近づけようとしていた。
正確には唇と…だが、そんな正確さは記憶に必要ない。

「…フュリーを勘弁してやって 総務でカメラ借りてきてまた裏庭行って
 あれ撮って大佐とハボックにメシたかるか?」
「私は命が惜しいです」
「だな」

マスタング組の頭脳担当は、あくまで明晰に結果を分析していた。