素直さの勝利


「その…だな、そろそろ少し落ち着いてきたし…」
最後の一枚を書類の山の上に重ねたロイが、肘をつきハボックへ目線を投げた。
咥えたタバコの先を揺らすという仕草で、続きを促すハボックが待ち体勢であるのに、
肝心のロイはその後を口に出そうとしない。

何を言いがたいのだろうと、ハボックは机の前で屈みこみ視線をロイに合わせるが、
それもさりげなくかわされた。
「帰りたいというのなら、車手配しますが?」
「違う!」
どうやら急ぎの書類が片付いたから、残りを見逃せという含みではなかったらしい。

チラチラとこちらを見上げるロイは、小動物がこちらの動きを伺っているようで
ハボックの唇に笑みが浮かぶ。
「何がおかしい」
「挙動不審な大佐の行動」
咥えた煙草の端を器用に揺らしニヤリと笑う姿は、サマになっていてロイの目を
一瞬奪った。

「お前は、気にしていないのか」
迷った末のロイの発言に、ハボックは「何がですか」としか返せない。
実際、ハボックにはロイが何を言おうとしているのかまったく検討がつかなかった。

「お前が 私に告白して…時間をくれと言ったままになっていることだ」

「ああ」
拍子抜けしたようなハボックの声に、ロイは小さく溜息をついた。
「私がこんなに悩んでいるのに お前は気にしていなかったというのか」
「…いや 俺にしてみりゃ嫌われて逃げられなきゃ御の字って思ってましたし」
「お前も…悩んだのか」

「黙ったまま悩むのはいつまでも引きますからね 言って悩む方が俺の性分にあうと
助言を貰ってから迷いは捨てました」
その助言は、見かけの数倍鋭い自分の部下の一人で、ハボックの友人からだろうと
ロイは納得をした。

「で…答えをくれるんスか」
表情から笑みが消え、真摯な眼差しでロイを見詰めるハボック。
だがその目線の先のロイは、きまずげに顔を俯かせた。

フゥと煙をまとめて吐き出したハボックは、少しつらそうに唇の端を上げる。
「覚悟はできてますから 早めにお願いします」
「………どうしたらいいのか 解らん」
「……………何スか、それ」
「仕方がないだろう!どうしたらいいのか解らんのだからっ!」

開き直ったように叫び返すロイに、ハボックは呆れた顔を返すしかない。
「解らないから待ってくれって意味だったんじゃないんスか」
「待ってもらったって 解らんものはわからんのだ!」
意味の通じない言動も、ここまでいばって返されるといっそ清々しい。
「えーっと大佐 確認しておきますが 俺の告白聞いて気持ち悪いと思いました?」
「いや 思ったら迷わんだろう」
「オレが離れていったらどう思います?」
「離す予定がないから その仮定は無意味だ」
「…自分が俺にとって どんだけ嬉しいこと言ってるか自覚あります?」
「自覚?なんのだ」

「大佐は俺の告白に、どうリアクションをしたらいいか迷ってるってことっスよね
…じゃあ答えは簡単です 俺を愛してください」
「なぜ そうなる」
「嫌いでもないし離す予定もない 告白されても気持ち悪くなくてでもどうしたらいいか
迷ってる… だったらそこから進んでくれると、俺は嬉しいです」

「…ああ、そういうことか」
「そういう事っス」
「うん、ああ まあ…そういう路線もあったな うん 検討してやらんでもないから、とり
あえずお前はコーヒーを買って来い」
「はい!」

最大級の笑顔とともに、部屋から飛び出していったハボックは、ハボックが部屋を
出た瞬間に、顔を真っ赤に染め上げたロイが、頭を抱えてうなり声を上げていたこと
を知らなかった。

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ハボックじゃなくちゃできない直球アタック(笑)