運転技術


 車で半日程度の距離の土地の地元料理が食べてみたいと言った
ロイの言葉がキッカケで、久しぶりの二人揃っての休日は海辺の
街へのドライブとなった。
「たまには私が運転してやろう」
「………そんな いいっスよ気ィ使わんでください」
「なんだその微妙な間と顔付きは 言っておくが私の運転は上手い
と評判だぞ」
 そうは言っても、日頃の職務以外でのロイの生活能力の低さを
常に目にしている者としては、自分にハンドルを握らせて欲しいと
思ってしまうのは、当然だろう。

 だが実際に助手席に座ってみると、ロイの言葉に偽りは無く停止
はスムーズだし、運転のブレもなく曲がり角の操作も見事だった。
普段と勝手が違うので、戸惑っていたハボックもしばらくすると
外の景色を眺める余裕も生まれ、少し慣れない日頃の逆の座り位置
からロイへと顔を向けた。
「お世辞じゃなく 乗り心地いいっス」
「フフンそうだろう だから言ったではないかね私の運転はうまい
と言われると」

「…いや大佐の事だから負けず嫌いでの口から勢いでの言葉かと…
自分で評判だなんていうほど 普段人を乗せてませんよね?」
「男はな」
「…なるほどね」
 評判というのが、かつてロイが色んな意味でオツキアイしていた
女性達からのものであると察したハボックが、ちょっと面白くなさ
そうな顔付きになったのに、ロイは吹き出した。
「お前の表情はこういう時感情を隠そうとするレディー達と違って
よみやすくて助かるよハボック」
「どうせ俺は単純です」
「そう拗ねるな プライベートで助手席に男を乗せてやったのは
お前が初めてだ」
「…マジで?」
「嘘をついてどうする ヒューズも乗せた事はあるが後ろ座席だ」
「…それは…ちょっと嬉しいかも」

 表情を一転させ途端上機嫌になったハボックに、ロイは内心で
その扱いやすさをおかしく思うのだが、さすがにそれを顔に出す
ような真似はしない。

「…大佐俺の事扱いやすい奴だとか思ってるでしょ」
 人の感情に機微に時折疎いクセ、こういう時ばかり鋭いなと涼し
い顔を装い続けながら、ロイは口先で否定して見せたがその声には
若干の笑いが含まれていた。

「まあいいっスけどね ひとつだけ言っときますよ」
「どうぞ 言いたいことがあったら言いたまえ」
正面を向いたままのロイの横顔を凝視するハボックは、サラリと
流されるのが心外だとばかり語気を強めた。

「俺が大佐のたった一言で喜んだりムッとしたりするのは 別に
感情がそのまま顔に出る単細胞頭だからって訳じゃないっスから」
「…私は一言もそんなことはいっていないが」

単細胞とまでは考えてなかったぞと心の中で思っても、内容その
ものは概ね否定できないロイは、口には出していないという点を
強調しハボックの追求を躱した。
「論点はそこじゃないですよつまり俺が言いたいのは俺が喜ぶのも
腹を立てるのもそれが大佐の言葉だからってこと 他の奴らが同じ
こと言ったって俺は別にふーんとしか思いません」
「…相変わらず お前はまっすぐで直截だな」
「ホントのことですもんそれに大佐はそういう俺が好きでしょ?」
 臆面も無くにっこり笑って言ってのけたハボックに、ついにロイ
も涼しい顔を保つのが無理となり、くすりと笑った。

「帰りは俺が運転しますからね 大佐」
俺が好きでしょの問い掛けに『そうだな そういうお前が気に入って
いる』と返したロイ。

その言葉で最上級にご機嫌となったハボックに、ロイは内心『地方
料理を食べるときにワインを飲むつもりだったので 最初から帰りは
お前に運転させるつもりだった』と告げたら暴れるだろうなと判断し
にっこり微笑んで「お前の運転を信頼して任せるよ」とだけ答えた。

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タイトルの運転は車だけじゃなく、ハボックの扱いについても含んだり(笑)